京の朝食

ニューヨークが育んだ
和食文化の新しい表情

写真・木村有希 文・溝渕みなみ(アリカ)

東本願寺のほど近く。町家が連なる静かな路地の中に、軒先に掲げられた看板の「魚」という文字が目を引く一軒。

ここは、ニューヨークで現地の食材を使った一汁三菜スタイルの和食が人気を博し、2018年に和食のお膝元・京都に〝逆輸入〞オープンした『ロリマー京都』だ。白を基調にリノベーションされたクリーンな空間は、高い吹き抜けが開放感に溢れ、2階の窓から差し込む陽光が店内を暖かく包む。

オープンキッチンに面したカウンター席からは手際良く調理するスタッフの手元が見え、時折会話などのコミュニケーションも交えつつ自分の料理が出来上がるのをのんびりと待つ。そんな朝のひと時が心地良い。

日本の四季の恵みと地域ごとの風土が育んだ和食という文化。そこにニューヨーク流のエッセンスが掛け合わされているのが同店の料理のスタイルだ。朝食のメインは、フルーツとハーブで下味をつけた旬の焼き魚。ほか、プリンのようになめらかでコク深い卵焼きや、ディルとゆず果汁で漬け込んだ季節野菜の浅漬けなど、ユニークな品々が皿に並ぶ。

意外な素材の組み合わせと味の掛け算、鮮やかな色彩、時にフランス料理の技法を取り入れることもあるという調理法など、海外で培われた感覚から生み出される献立が素朴な和食のイメージを覆す。

一汁五菜

そこに、いかにも京都らしい白味噌と麹味噌をブレンドした味噌汁と、京都の米老舗『八代目儀兵衛』の米を使用したホカホカのご飯が意外にもマッチし、食べ進めるうちに「和」を感じられるのがおもしろいところ。

開店当初は基本となる「一汁三菜」のみの提供だったが、そこに2品を加えた「一汁五菜」や、刺身も食べたいという常連客の要望に応えた「一汁五菜二魚」なども加わり、その日の気分に合わせて豊富なバリエーションから好きな朝食が選べる。

斬新な献立に目が行きがちだが、魅力はそれだけではない。魚は漬け込み液に浸す前に隠し包丁を入れる、卵焼きは温度を細かく測りながら焼き上げるなど、美味しく供するための手間を惜しまない調理が同店の味を支えている。

出汁を取った昆布は佃煮にしてご飯に添え、捌いた魚のアラは炊いて焼きおにぎりの具にして提供。そこには自然を敬う和食文化の精神性が表れている。「『もったいない』という言葉を大切にしていた初代の想いを継承していきたい」と3代目オーナーの井上誠さん。確かな技術と真心が生み出す、京の和食の新たな1ページをご堪能あれ。

ロリマー京都

京都市下京区橋詰町143

電話:075-366-5787

営業時間:8:00~16:00(15:30L.O.)※土・日曜、祝日は7:30から

定休日:なし

https://www.instagram.com/lorimer_kyoto/

「一汁五菜」2,200円(税込)

※ 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2022年5月号掲載時点のものです。

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溝渕みなみ(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「ニューヨークが育んだ和食文化の新しい表情」。