京の名水 古都の味
写真・木村有希 文・坂本綾(アリカ)
1847年(弘化4年)から、御所南の地で味噌造りを続ける『御幸町 関東屋』。名だたる料理店や菓子店など、食のプロ御用達の醸造元だ。たとえば一般向けに店頭に並ぶ白味噌は3〜4種だが、特注を受けて造るのは15種。
「お客さんとキャッチボールしながら造っていくのがうちの味噌。それだけに、微妙な調整が可能な手作業が製造の中心です」と、6代目の西田有一郞さんは話す。使い手の要望に合わせた甘さ・辛さ・香り・粘度に仕上げられた味噌が、京の料理人の仕事を陰から支える。
その味噌造りに欠かせない素材の一つが、敷地内の井戸から汲み上げ、煮沸して用いる比良山系の地下水だ。大豆や米を洗うにも浸漬するにも良質な水は不可欠。特に色白く雑味少なく仕上げる白味噌は、何度も煮汁を替えながら大豆を煮る工程で多くの水を使う。
現在3本目となる井戸の取水深度は地下57メートル。この深さでも時期によって色や味が変わることがあり、時には数十分汲み続け、水が落ち着くのを待つという。
プロの期待に応える「いつも同じ使い勝手・同じ味」を厳しく求めるのが、同店の誇りだ。しかしこの、いつも同じ、というのが簡単ではない。たとえば味噌の味の核となる糀(米麹)は、その日の気温や湿度はもちろん、原料米の精米や乾燥の状態でも菌糸の発育具合が変わる。
そうした毎日の観察と調整に加え、「できた料理やお菓子を味わう方の嗜好が、時代により変わってきたことも無視できません」と西田さんは言う。「実際、20〜30年前の白味噌は今ほど甘くなかったですよ。味覚の変化まで踏まえ、『いつも同じおいしさ』の味噌を造るのがうちの仕事だと思います」。
これらの味噌の中でも、同店の生産量の約7割を占め、これから年の瀬に向け仕込みの最盛期を迎えるのが白味噌だ。その芳醇な甘みは、一般的な味噌の倍以上も使われる糀が醸し出すもの。全国から豊富な米が集まる都だからこそ生まれた伝統食品で、料理に菓子にと京の食文化を支えてきた。その真骨頂はぜひ京都で体験いただきたいが、自宅で味わうのもまた一興だ。
実は味噌汁は味噌の量や具の取り合わせが案外難しく、むしろ乳製品と好相性だという。加熱しても風味が落ちないため、グラタンやシチュー、鍋つゆなどはお勧め。西田家の定番は白味噌キムチ鍋とか。京の歴史と水が育んだ味噌と一緒に、そんな現代的な楽しみ方を土産にするのもいい。
御幸町 関東屋
京都市中京区御幸町通夷川上ル松本町582
電話:075-231-1728
営業時間:10:00~17:00
定休日:第3土曜・日曜、祝日
粟國の塩仕込白味噌 角袋(500g)1,350円(税込)など
※ 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
*掲載情報は2021年10月号掲載時点のものです。
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坂本綾(アリカ)さんが綴るコラム【京の名水 古都の味】。今回は「京の味を支える味噌は不断の手仕事と水の賜物」。