メニュー

メニュー

シグネチャー

京都、路地のなじみ

繊細な口あたりに思わず唸る花街生まれの洋食

写真・橋本正樹　文・白木麻紀子（アリカ）

清水寺へと続く石畳の上り坂、二寧坂（二年坂）。その石段のたもとに立つ元旅館、今はスターバックスとなっている建屋の角を曲がると、細い「二寧の路地」が伸びる。どんつきの少し手前まで行くと『洋食の店 みしな』の角行灯が。暖簾をくぐればカウンター席と厨房が見渡せる、小さな店である。

もとは東京の洋食名店で修業した壷阪貴代次さんが、1948年（昭和23年）に京都・祇園に開いた洋食店『つぼさか』が始まり。当時はまだ珍しかった本格西洋料理が味わえるとあってたちまち地元の文人や映画関係者、芸舞妓らで賑わう店になった。

小説家・谷崎潤一郎も常連の一人で、「先生から『病気で行けないから何か持ってきて』と連絡があると、夫がお宅までスープを自転車で運んでいました」と現女将の三品雅子さん。

そんな『つぼさか』は、昭和の末に看板を下ろす。しかし1994年（平成6年）、再開を望む多くの顧客の声に後押しされ、雅子さんの夫で長年『つぼさか』の料理人を務めた三品寿昭さんが、自宅を改装し『みしな』を開店。寿昭さん亡き今は女将とその息子、娘の3人で営んでいる。

味は『つぼさか』時代から変わらず、「カニクリームコロッケとエビフライの盛合わせ」も長らく愛される看板メニューだ。ベシャメルソースにカニ身をたっぷり入れたコロッケと天然シータイガーを揚げたエビフライはなんとも軽やかな後口。その秘訣はサクサクの衣をなす極めて目の細かい自家製生パン粉にある。

食パン一本を一晩寝かせて水分を飛ばし、耳を落としてミキサーにかけた後、さらに裏漉しを施して、極細に仕上げた真っ白なパン粉。それを薄くまとわせ大豆白絞油で揚げたフライは、驚くほどに繊細で優しい口あたりである。

エビフライは3つほどにナイフで切り分けてから、箸で食べるのがおすすめ。衣の香ばしさやエビの風味が、より濃厚に感じられること請け合いだ。ナイフとフォークに加え割り箸を添えるのがこの店のスタイルなのは、なじみ客の芸舞妓から望まれたのがきっかけだそう。

そして「締め」に必ず味わいたいのが、お茶漬だ。洋食店らしからぬ名物だが、箸で食べるならと茶碗に盛ったご飯と自家製佃煮を出したところ、客がそれをお茶漬にするようになり、やがて定番になったという。

ご飯の上に茎わかめの佃煮をのせ、煎茶をかけ、よくかき混ぜて味わえば、爽やかな満足感に包まれる。食後は軽快な足取りで、坂道を下れること間違いなしだ。

洋食の店 みしな

京都市東山区桝屋町357

電話：075-551-5561

営業時間：昼12:00 ～／ 13:30 ～（2部制）
夜17:00 ～ 19:30（最終入店）※予約優先

定休日：水曜、第1・第3木曜（祝日の場合は翌日）

「カニクリームコロッケと海老フライの盛合わせ」（昼はサービスでお茶漬付）2,800円

  • 支払いは現金のみ

＊掲載情報は2024年4月号掲載時点のものです。

twitter facebook LINE

Recommends

2024/12/02 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 人柄が繋ぐ縁と家庭のぬくもりが詰まった生パスタ『Cantina Rossi』

2024/11/01 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 柔らかな灯りが洩れる路地奥の隠れ家で季節のおばんざいを『お数家 いしかわ』

2024/10/01 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 入魂の餡がとろける 御所北の名物餅『大黒屋鎌餅本舗』

2024/08/09 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 不思議の空間で出合う心躍る中華料理『一盘菜 田中（イーパンツァイ タナカ）』

2024/07/11 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 半世紀、極上の音を届けるジャズ喫茶でコーヒーを『jazz spot YAMATOYA』

2024/06/12 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 撞木辻子で味わう滋味深いすっぽん料理『瓢亭MARU』

2024/05/14 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 駅近で、ワインとおやつに舌鼓を打つ昼下がり『ALKAA（アルカ―）』

2024/04/23 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 繊細な口あたりに思わず唸る花街生まれの洋食『洋食の店 みしな』

2024/03/14 Kyoto Gourmet

京都、路地のなじみ - 祇園の小径の「食べもん屋」でひとり鍋の愉楽『小鍋屋 いさきち』

2024/01/16 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 「発酵」の美味しさと気づきを楽しむ『発酵カフェ Haccomachi』

2023/12/13 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 御所西のホテルで京都を堪能する朝懐石『京懐石 螢』

2023/11/13 Kyoto Gourmet

京の朝食 - おばんざいの名店が手掛ける中華粥の新たな佳品『富小路粥店』

2023/10/13 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 職人の手で110年守り継がれる京のパンの味『進々堂 三条河原町店』

2023/08/14 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 季節のおばんざいと　つやつや土鍋ご飯　飾らない京の味『旬菜いまり』

2023/07/11 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 京とインドが奏でる和音 スパイス香る朝定食『SPICE GATE』

2023/06/13 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 純喫茶の和風トーストと学生街の活気で目覚める『喫茶アマゾン』

2023/05/18 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 土鍋で炊くご馳走 卵かけご飯で始める 東山の朝『御米司ふみや』

2023/04/11 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 蓋を開けた瞬間に思わず歓声があがる美しい手毬寿司『花梓侘』

2023/03/27 Kyoto Gourmet

京の朝食 - レバニーズな朝食はピタとメゼの爽やかなハーモニー『汽［ki:］』

2023/01/16 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 三代受け継ぐ名喫茶のホットケーキ『スマート珈琲店』

2022/12/13 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 比叡おろしの洛北を温める白味噌雑煮『一乗寺 中谷』

2022/11/14 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 目の覚める旨み“すっぽん”でととのう朝『京料理 入舟』

京の朝食 - 京都駅近くの朝名物後味すっきり、優しい一杯『本家第一旭 本店』

2022/10/14 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 京都駅近くの朝名物後味すっきり、優しい一杯『本家第一旭 本店』

京の朝食 - パン好きの京都人が愛する世代を超えたソウルフード『志津屋 本店』

2022/08/12 Kyoto Gourmet

京の朝食 - パン好きの京都人が愛する世代を超えたソウルフード『志津屋 本店』

京の朝食 - 祇園に遊ぶ旦那衆や 政財界人に愛された名料亭、夏の朝がゆ『瓢亭 本店』

2022/07/11 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 祇園に遊ぶ旦那衆や 政財界人に愛された名料亭、夏の朝がゆ『瓢亭 本店』

京の朝食 - 秀吉ゆかりの店で味わう 門前町の甘辛い口福『祢ざめ家』

2022/06/17 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 秀吉ゆかりの店で味わう 門前町の甘辛い口福『祢ざめ家』

京の朝食 - ニューヨークが育んだ和食文化の新しい表情『ロリマー京都』

2022/05/17 Kyoto Gourmet

京の朝食 - ニューヨークが育んだ和食文化の新しい表情『ロリマー京都』

京の朝食 - 古都の街を眼下に堪能するパリと京都が融け合う品々『レストラン グランカフェ フォション』

2022/04/11 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 古都の街を眼下に堪能するパリと京都が融け合う品々『レストラン グランカフェ フォション』

京の朝食 - 丹後の土と海が育んだ生命をそのまま朝の食卓に『丹』

2022/03/15 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 丹後の土と海が育んだ生命をそのまま朝の食卓に『丹』

京の朝食 - 旅の初めを彩る喫茶名店の優雅な時間『イノダコーヒ』

2022/01/14 Kyoto Gourmet

京の朝食 - 旅の初めを彩る喫茶名店の優雅な時間『イノダコーヒ』

京の名水 古都の味 - 桃山時代の井戸とともに名水を守り継ぐ出汁の味わい『菊乃井 本店』

2021/12/13 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 桃山時代の井戸とともに名水を守り継ぐ出汁の味わい『菊乃井 本店』

京の名水 古都の味 - 錦の水が生み出した京の名脇役「ゆば」『京ゆば 湯波𠮷』

2021/11/11 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 錦の水が生み出した京の名脇役「ゆば」『京ゆば 湯波𠮷』

京の名水 古都の味 - 京の味を支える味噌は不断の手仕事と水の賜物『御幸町 関東屋』

2021/10/13 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 京の味を支える味噌は不断の手仕事と水の賜物『御幸町 関東屋』

京の名水 古都の味 - 比叡山水系の地下水が育む 蕎麦老舗の変わらぬ味わい『本家尾張屋本店』

2021/08/12 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 比叡山水系の地下水が育む 蕎麦老舗の変わらぬ味わい『本家尾張屋本店』

京の名水 古都の味 - 伝統と革新の精神を宿す京のクラフトジン『季の美House』

2021/07/09 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 伝統と革新の精神を宿す京のクラフトジン『季の美House』

京の名水 古都の味 - 「水」は京菓子の大切な材料 風味を引き立てる自然の恵み『亀屋良長』

2021/06/15 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 「水」は京菓子の大切な材料 風味を引き立てる自然の恵み『亀屋良長』

京の名水 古都の味 - 京料理を縁の下で支えるまろやかな酸味の「酢」『林孝太郎造酢』

2021/05/17 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 京料理を縁の下で支えるまろやかな酸味の「酢」『林孝太郎造酢』

京の名水 古都の味 - まろやかな水が生む やわらか京豆腐『入山豆腐店』

2021/04/08 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - まろやかな水が生む やわらか京豆腐『入山豆腐店』

京の名水 古都の味 - 宮中で培われた技と京の水が溶け込む麸の味わい『半兵衛麸』

2021/04/01 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 宮中で培われた技と京の水が溶け込む麸の味わい『半兵衛麸』

京の名水 古都の味 - 水が育むまろやかな風味 京都・伏見の「女酒」『増田德兵衞商店』

2021/01/14 Kyoto Gourmet

京の名水 古都の味 - 水が育むまろやかな風味 京都・伏見の「女酒」『増田德兵衞商店』

京都肉三昧 - 龍馬も愛した京のかしわ。高瀬川沿いで食す「水炊き」『鳥彌三』

2020/12/14 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 龍馬も愛した京のかしわ。高瀬川沿いで食す「水炊き」『鳥彌三』

京都肉三昧 - 泡塩を添え、ステーキで食す 最古のブランド和牛「近江牛」『れすとらん松喜屋 京都四条店』

2020/11/10 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 泡塩を添え、ステーキで食す 最古のブランド和牛「近江牛」『れすとらん松喜屋 京都四条店』

京都肉三昧 - 民藝の作品に囲まれ味わう「しゃぶしゃぶ」のルーツ

2020/10/12 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 民藝の作品に囲まれ味わう「しゃぶしゃぶ」のルーツ

京都肉三昧 - 百四十余年愛され続ける ハレの日の味「すき焼き」『三嶋亭 本店』

2020/08/12 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 百四十余年愛され続ける ハレの日の味「すき焼き」『三嶋亭 本店』

京都肉三昧 - プリッと肉厚、甘くとろける「牛タンの刺身」『肉料理かなえ』

2020/07/09 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - プリッと肉厚、甘くとろける「牛タンの刺身」『肉料理かなえ』

京都肉三昧 - 花街の秘かな愉しみ 熟成牛の「塩ハンバーグ」『上七軒 ゆう』

2020/06/10 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 花街の秘かな愉しみ 熟成牛の「塩ハンバーグ」『上七軒 ゆう』

京都肉三昧 - 舌触りで感じる肉の旨さ　京の洋食「ビフカツ」『肉専科はふう』

2020/05/12 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 舌触りで感じる肉の旨さ　京の洋食「ビフカツ」『肉専科はふう』

京都肉三昧 - 精肉店直営の料理店で極みの和牛と出合う『御肉処 銀閣寺大にし』

2020/04/01 Kyoto Gourmet

京都肉三昧 - 精肉店直営の料理店で極みの和牛と出合う『御肉処 銀閣寺大にし』

古都の音色 - 無言ゆえ際立つ囃子と躍動 古刹に根付く「壬生狂言」

2020/03/16 Kyoto

古都の音色 - 無言ゆえ際立つ囃子と躍動 古刹に根付く「壬生狂言」

古都の音色 - 野趣に富む“流れの庭” 多彩な水音が響く『無鄰菴』

2020/02/17 Kyoto

古都の音色 - 野趣に富む“流れの庭” 多彩な水音が響く『無鄰菴』

古都の音色 - 17名の僧侶が勇壮に撞く知恩院の「除夜の鐘」

2019/12/16 Kyoto

古都の音色 - 17名の僧侶が勇壮に撞く知恩院の「除夜の鐘」

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

白木麻紀子（アリカ）さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「繊細な口あたりに思わず唸る花街生まれの洋食」。