京都肉三昧

プリッと肉厚、
甘くとろける
「牛タンの刺身」

写真・伊藤 信 文・坂本 綾(アリカ)

銘々皿ほどの小さな器に、絹のようにしっとりと艶めかしい肉が2切れ。目の前で大きな塊から切り出されたばかりのタンは、巷の「タン刺し」とは別物の美しいロゼ色と厚みで目を奪う。
載せられた薬味ごとくるりと巻いて口に運べば、まず感じるのは、サクサクプリプリ心地よい歯ごたえと、山葵の香気、昆布の佃煮の甘辛さ。その奥から、新鮮な牛肉の香りと肉汁の甘みがジュワッとあふれ出してくる。噛むほどに湧いてくるこの旨みを、いつまでも味わっていたい……そう思う間もなく、それはトロリと喉の奥へと滑り落ちていく。

生の牛肉が存分に味わえる店として肉好きに知られる『肉料理かなえ』。このタンに始まり、ミノ・ハツ・赤身と、まずは刺身で肉そのものの味を楽しむのがコースのお約束だ。鮮度・質ともに最上の肉を扱う店でしか提供できない刺身は、言わば実力の証明書。と同時に、京都の肉文化の深みを伝える品でもある。
というのも京都は長年、近江など近隣の牛肉産地を支える一大消費地の役割を果たしてきた。その過程で発達した適切な流通や設備、目利きなどが存在するからこそ、現在も上質な牛肉が低コストで供給されているのだ。

牛タンの刺身

コースは刺身のほか、その日おすすめの部位に応じたアレンジの焼き物やタンシチュー、ご飯物などが約10品。どれも各部位の特色を活かした調理、かつ大ポーションで、「肉を食べる幸せ」が堪能できる。地元はもちろん、首都圏から定期的に訪れるファンも多く、「この品質の肉をこの値段で出せるのは京都ならでは」と、女将の圭奈笑さんは胸を張る。

兄の亮佑さんとともに厨房にも立つ圭奈笑さんは一見、楚々とした京美人だが、「肉なら刺身からTボーンステーキまで何でもこい」という、根っからの〝肉食女子〞でもある。その肉好きが高じて営む店だけに、「その日一番おいしいものを」との思いは強く、供する肉は国産黒毛和牛のみと決めて、産地や生産者にはあえてこだわらず、信頼を寄せる地元精肉店の提案から日々吟味して仕入れている。

肉のよさを活かすため、使う薬味や調味料を一つ一つていねいに研究するのも、「かなえ流」だ。たとえば冒頭のタンに添えられた昆布の佃煮も、タンが最も美味
しくなる甘みや塩気を追求して試作を重ねた自家製。「メニューがなかなか増えないのが困りものですが、自分自身が本当においしいと思ったものだけを出したいから、妥協はできません」。肉好きによる、肉好きのための、珠玉の一軒だ。

肉料理かなえ

京都市中京区上樵木町500-5 ア・カーザ木屋町102
電話:075-256-5220
営業時間:18:00~22:00(L.O.)
定休日:木曜

ディナー13,000円(税抜)

  • コースのみ・完全予約制
  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2020年7月号掲載時点のものです。

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坂本 綾(アリカ)さんが綴るコラム【京都肉三昧】。今回は 「プリッと肉厚、甘くとろける「牛タンの刺身」」。