京の名水 古都の味
写真・木村有希 文・藤本りお(アリカ)
梨木神社の染井、京都御苑の縣井と並び、京都三名水と謳われた「佐女牛井」。通り沿いにその井戸があったことから名付けられた醒ケ井通と四条通の角に、1803年(享和3年)から続く和菓子店『亀屋良長』がある。
江戸にも名が知られた『亀屋良安』から暖簾分けされ創業。「当時この辺りは都の商業地区の西の端で、隣は農村。わざわざそんな場所に店を構えたのは、良い水を求めてだと伝え聞いています」と語るのは、八代目当主の吉村良和さん。醒ケ井通の東側、同じく南北に通る小川通を北へ行くと表千家や裏千家、武者小路千家といった、やはり水を大切にする茶道の家元が集まっていることからも、都の西側は良い水が湧く地域だったことが窺える。
「洋菓子とは違って、和菓子はとにかく水をたくさん使います。小豆を洗う、餡を炊く、寒天をもどす……。小豆や米粉、砂糖と同じように、水はお菓子の材料の一つなんです」と吉村さん。
創業以来、代々和菓子づくりに使ってきた井戸水は、実は1962年(昭和37年)の地下鉄工事の影響で一度途絶えた。現在「醒ヶ井」と呼ばれる井戸は、平成になって新たに掘り直し、およそ30年ぶりに復興したものだ。現在は工場を併設する店舗ビルの蛇口から、地下80メートルより汲み上げられる地下水が出る。
硬度約60㎎/ℓの中軟水で、雑味のないすっきりとした味わい。店舗脇に設けた筧から流れる水は、誰でも汲むことができ、お茶を淹れたり、米を炊けばおいしいと評判だ。「水は自然の恵み。そのお裾分けです」。
代表銘菓は「烏羽玉」と呼ばれる餡子玉だ。沖縄県・波照間島産の黒糖の風味が香るこし餡を寒天で覆い、ケシの実を飾っている。烏羽玉は、和歌で黒や夜にかかる枕詞でもある“ぬばたま”が転じたもので、小さくて丸く艶やかな黒色をしたヒオウギの種のことだ。時代を経て材料に変化はあるが、この種を思わせる烏羽玉の姿は、昔から変わらないという。
また近年の新作で、烏羽玉と人気を二分するのが「スライスようかん」。まるでスライスチーズのような薄く四角い羊羹にバター羊羹を合わせたもので、パンに載せてトーストする。「和菓子が朝食に進出した、というのは大きな変革でした」と吉村さん。
創業時からの伝統の和菓子と、新感覚の和菓子。どちらにも生かされているのが、素材本来の風味を引き出す「醒ヶ井」の名水。京都を訪れる際にはぜひ、復活したこの井戸水も味わってみてほしい。
亀屋良長
京都市下京区四条通油小路西入柏屋町17-19
電話:075-221-2005
営業時間:9:00〜18:00
定休日:1月1日・2日
烏羽玉(6個入)486円(税込)など
※新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
*掲載情報は2021年6月号掲載時点のものです。
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