京都、路地のなじみ

琥珀色の液体に溶け込んだ失われた時の味わい

写真・畑中勝如 文・坂本 綾(アリカ)

鴨川の西岸、三条通と四条通の間に延びる先斗町ぽんとちょう通。一帯は江戸時代中期から花街として発展し、市中の多くを焼いた幕末の大火「どんどん焼け」の被害を免れたことで、江戸時代の建物や地割を現代に残すこととなった。その名残の一つが、先斗町通から主に西側に入る路地だ。今に残された20余りの路地の多くでは、個性豊かな小規模飲食店やバーがしのぎを削る。『クラブ デゼール』は、そのうちの「十三番路地」の建物2階に店を構え、今年37周年を迎えるバーだ。

重いドアを開けると迎えてくれるのは、ほんのり光る照明が中に仕込まれて優美な曲線を描くカウンターと、10脚のスツール、店主・原野誠司さんの端正な立ち姿。そして、バックバーや飾り棚に並ぶファン垂涎のオールドボトルである。ウイスキーやブランデーはもちろん、カクテルに用いるヴェルモットやリキュールもオールドボトルで徹底されている。

一般に言うオールドボトルの範疇は広いが、原野さんが供するものは1970年代まで。蒸留酒の生産量が跳ね上がった80年代以降、たとえばウイスキーは、麦の品種もモルティングの方法も変わり、良質な樽も減ったことで、まるで別物になった。それ以前と以後では、味わいの「次元が違う」と原野さんは言う。

 「ジョニーウォーカー ブラックラベル」の、60年代前半のボトルを試してみた。滑らかな口当たりと、飲み込んだ後から喉の奥でいつまでも香る、深い余韻に陶然とさせられる。実はこれは37年前、原野さん自身がオールドボトルに開眼するきっかけになったという1本。「こんなに美味しいお酒があったのか!」という感動に突き動かされて酒店を巡り、当時はまだ豊富だった在庫をありったけ買い付けて回ったという。

その後「本当にお酒が好きな人だけにこの美味しさを伝えたい」と、あえて一見客はまず訪れない路地の2階で開店。割り水の銘柄や氷の締め方も吟味を重ね、主に口伝てで、全国から定期的に訪れるなじみ客を増やしてきた。

状態の悪いボトルは躊躇せずに流すストイックな姿勢の一方で、おすすめの飲み方を聞くと「ストレートでも水割りでもハイボールでも、何ならコークハイでも」とオールドボトルの懐の深さを語る原野さん。「伸びが良いから、どう飲んでも美味しいんです」。割り材に左右されない力強い旨みと香りが、オールドボトルの真骨頂。現代に残ること自体が奇跡的な「失われた時」の恵みを、思いのままに楽しみたい。バカラやサン・ルイなど、繊細なアンティークグラスもまた、一期一会の1杯に華やぎを添える。

CLUB DÉSERT(クラブ デゼール)

京都市中京区木屋町四条上ル十三番路地東入北側 2階

電話:075-221-8496

営業時間:19:00~24:00

定休日:月曜

「オールドパー(1950年代前半)」シングル4,400円(税込)

*掲載情報は2026年6月号掲載時点のものです。

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坂本 綾(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「琥珀色の液体に溶け込んだ失われた時の味わい」。