京都、路地のなじみ

魚介出汁の深い旨みを
ぬくもり溢れる隠れ家バルで

写真・橋本正樹 文・永野 香(アリカ)

観光客で賑わう新京極通。人出のピークは四条通と交差するあたりだが、その一本北側に、東へ延びる細いアーケードがある。

50メートルほどで分かれ道となり、右へ曲がれば四条通へと抜ける、"京都一短い商店街"花遊小路だ。繁華街の中心にありながら一歩入ればすっと喧噪が遠のく、この不思議な小路に店を構えるのが『Ternuraテルヌーラ』。

1階はカウンターとハイテーブル、2階は広めのテーブルが配され、一人でも多人数でも、気軽にスペイン料理とお酒が楽しめる店である。

2005年に麩屋町蛸薬師近くで創業し、約17年前現在地へ。その頃から厨房に立つのが、現オーナーの木口歩きぐち あゆむさんだ。

「阪急京都河原町駅からすぐ。この『駅チカ』が一番のウリかも」とおどける木口さん。終電ギリギリまで呑めるのが繁盛の理由というわけだ。ちなみに正午〜24時の通し営業で、"昼呑み"も楽しめる。

もちろん、店が20年続く理由はそれだけではない。なじみの客が口をそろえるのが、その確かな味と温かなもてなしだ。

看板メニューは、魚介の出汁が染みるパエリア。味の核となるのは、鯛や平目といった魚介のアラに数種類の野菜、そしてハーブを加え3〜4時間じっくり煮込んだフュメドポワソンだ。
これをベースに大粒品種のカルナローリ米と具、アニスやオレガノなどのスパイス、そして細かく切った生ハムを加え、炊き上げていく。

この日は、一番人気というハマグリと赤海老入りを。しっとりしつつ芯が程よく残る米は、噛むほどにじわっと深い味が広がり、そこにスパイスの快い刺激が追いかけてくる。ジューシーな海老、肉厚で弾力のある貝、さらに鉄鍋についた"お焦げ"がまた香ばしくたまらない。

このほかタパス各種、京都産もち豚肩ロースのグリルなどの一品と、お酒が進むメニューがずらり。ワインはスペイン産を中心に、果実味の濃いラインナップがそろう。

店名のテルヌーラはスペイン語で「慈愛」の意味をもつ。5年前まで店を一緒に切り盛りしていた前オーナー・妹背源忠いもせ もとたださんは、予期せぬ病で世を去った。「想像より随分早かったけど、何よりこのお店ともっちゃん(前オーナー)が大好きだったので」と引き継ぐことを決めた木口さん。

店名にたがうことなく、なじみの客も初めて訪れる人も、心置きなく楽しんでもらえる店にしたいという。かつて妹背さんと共に訪れた、本場スペインの陽気なバルのように―。

木口さんの穏やかな笑顔と渾身の味が、今日も老若男女を惹きつける。

Ternura(テルヌーラ)

京都市中京区新京極通四条上ル中之町565-31

電話:075-213-0220

営業時間:12:00~24:00(L.O.23:00)

定休日:水曜、ほか日曜不定休あり

「パエリア ハマグリと赤海老」2,600円、
「グラスワイン」800円~(共に税込)

*掲載情報は2025年8月号&9月号掲載時点のものです。

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永野香(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「魚介出汁の深い旨みをぬくもり溢れる隠れ家バルで」。