京の朝食

おばんざいの
名店が手掛ける
中華粥の新たな佳品

写真・木村有希 文・石嵜綾子(アリカ)

賑やかな四条通を抜け、富小路通を南へ下るとしだいに雑踏が遠ざかっていく。商業ビルが消え、小さな店舗や瓦屋根の家などが入り混じる景色へ移り変わるころ、美しい青緑色のタイルが目に留まった。昭和期築の二階建て住宅を改装したというここは、『富小路粥店』。おばんざいの名店として知られる『御料理めなみ』の姉妹店である。

『御料理めなみ』は、飲食店が軒を連ねる木屋町界隈で80余年の歴史を誇る店。その3代目女将・勝田桜子さんは旅行好きで、東南アジアをたびたび訪れ、現地の料理の虜になった。多くの国では朝食に粥を食べるのが定番で、朝早くからたくさんの屋台が並ぶ。

「日本でも、出勤前などにちゃちゃっと朝ごはんが食べられるお店がもっとあってもいいのでは?」と思いつき、コロナ禍のただ中、2022年1月に、朝7時からオープンする『富小路粥店』を開店した。

看板メニューの「中華とり粥 “極”」は鶏ガラスープで炊いた米を、さらに鶏ガラスープで米粒が崩れるまで煮る、濃厚な中華粥だ。注文を受けてから、スープと粥を小鍋に合わせ、さっと煮立たせて仕上げる。このひと手間が、上品な味わいを生む。

碗にたっぷり注がれた中華粥はとろっとした口当たりで、鶏の旨みと米の甘みが快い。蒸し鶏、れんこんチップ、九条ネギなどが彩りよく盛り付けられ、揚げパンやナッツの食感も楽しく、思わず笑みが溢れてくる。ニラの醤油漬け、あみえびの塩辛、肉味噌などの薬味を加えれば、味が変化するのも一興。多彩で贅沢な一杯である。

中華粥と合わせて、『御料理めなみ』でつくられたおばんざいも注文できる。おばんざいと言えば京都の伝統的な惣菜を想起するが、勝田さんの父がかつて営んでいた『ビストロめなみ』では「世界中のおかずがおばんざい」と考え、様々な国の郷土料理を提供していた。

一番人気の「大根餅」は、その中で勝田さんがもっとも好きだった一品。思い出の味を何度も試して再現に至ったという。一口ほおばると外側はカリッと、中はもっちりジューシー。生地にひそかに練り込まれた蒸しえびとベーコンの風味が香り、奥行きのある味わいだ。

異国の日常を彩る何げない料理に名店の洗練した技術が注ぎこまれ、唯一無二の味が生み出されている。「京都の人に愛される店をつくるためには、違う文化も取り入れないと。京都という街そのものも、その積み重ねでできていますよね」と勝田さん。京都人に長年愛され続ける名割烹の秘訣が、垣間見えた気がした。

富小路粥店

京都市下京区徳正寺町41-2

電話:075-744-0662

営業時間:7:00~16:00(L.O.)

定休日:水曜

https://www.instagram.com/tominokouji_kayuten/

「中華とり粥 “極”」1,300円(税込)※店内飲食のみ、
「大根餅」220円(税込)※テイクアウト可

*掲載情報は2023年11月号掲載時点のものです。

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石嵜綾子(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「おばんざいの名店が手掛ける中華粥の新たな佳品」。