京都、路地のなじみ
写真・伊藤信 文・西本遥菜(アリカ)
京都・四条烏丸といえば、日中はビジネスパーソンが行き交うオフィス街。だが、日が沈むと様相はガラリと変わり、大人の夜歩きが似合う街となる。7月の祇園祭では、山鉾が立ち並ぶ界隈でもある。
その一角に、撞木辻子と呼ばれる路地がある。撞木とは鐘などを打ち鳴らす棒で、その丁字形に似た形状の小径にバーや居酒屋などが軒を連ねる。丁の字の根元にあたる角のビル1階に、ひっそり佇むのが『瓢亭MARU』だ。カウンター6席にテーブルが3つ、奥に小上がり。地元客の集う店らしく京丸うちわや祇園祭・月鉾の縄がらみなどが飾られている。
「肩ひじ張らず、気楽に来てもらいたいんです。僕も話し好きですし」と笑顔で語るのは、店主の平井利昭さん。生まれは江戸時代末創業の料亭『上御霊瓢亭』。大学卒業後、一時は銀行に就職したものの、3年で生家に戻って修業を積み約20年前、この地に新たな店を構えた。以前と違い「お客さんと直接会話できるのが嬉しいですね」。
今や常連はもちろん観光客でも賑わう店の名物は「すっぽん」。甲羅が丸いことから「まる」とも呼ばれるこの食材は鰻と並んで精がつき、含まれる必須アミノ酸は20種とも言われる。
「すっぽんってゲテモノのように思われがちやけど、京料理ではポピュラーな食材。実は美味しいんですよ」と平井さん。高級食材のイメージも強いが、この店では京料理の伝統的技法を用いつつ、リーズナブルに提供している。
看板メニューは「まる鍋」。平井さんいわく「鍋はすっぽんの出汁を味わうもの」。だから具材は、すっぽんに焼き葱、豆腐といたってシンプル。「えぐみが出ないよう、わっと沸いたらすぐ熱々を出します」。
とろみのある透き通ったスープを口元に運ぶと、豊かな香りがふわりと鼻腔に広がる。利尻昆布と本枯れ鰹節で引いた出汁に、錦市場で仕入れた上質なすっぽんのエキスが溶け込んで、複雑な旨みをつくり出している。
鶏肉と白身魚を合わせたような、程よい弾力と引き締まった身の食感、そしてジューシーな味わいに思わず箸が進む。すっきりした後口は生姜の搾り汁を加えているからだとか。
すっぽんを使った一品料理も充実し、とくに女性客に人気なのが「まるまんじゅう」。すっぽんの身を、すり潰した里芋で包んで湯葉でくるみ、その上にあんがかかる。上品かつ癖になる味わいだ。
老舗の技を引き継いだ気さくな店で「すっぽん」を味わう。その豊かな滋味で心と身体をチャージしてみては。
瓢亭MARU
京都市中京区室町通新町の間四条上ル
電話:075-241-0345
営業時間:18:00~24:00(L.O. 23:00)
※22:00以降の来店は事前に要連絡
定休日:月曜
「まる鍋」1,650円、「まるまんじゅう」1,350円(共に税込)
*掲載情報は2024年6月号掲載時点のものです。
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西本遥菜(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「撞木辻子で味わう滋味深いすっぽん料理」。