京の朝食
写真・武甕育子 文・山下崇徳(アリカ)
和食のイメージを抱かれがちな京都だが、実はパンの消費量が度々全国1位となるほどの「パン好きの街」で、朝食はパン派という人も多い。そんな京都にあって、繁華街や駅ナカなど、市内だけで現在20店舗以上を展開し、地元で親しまれるベーカリーといえば、1948年(昭和23年)創業の『志津屋』だ。京都を訪れる人なら、きっと一度は目にしたことがあるだろう。
そして、京都人が「学生時代、毎日食べていた」「毎朝、通勤途中に買っていく」と親しみを込めて語る『志津屋』の名物が「カルネ」である。「子どもの頃、いつも家の冷蔵庫に入っていたから」と大人になり今度は子や孫のために買い求める地元客のほか、今は京都を離れて暮らす人が「カルネ」を懐かしんでわざわざ買いに来ることも。老若男女に愛されてきた、まさに京都人のソウルフードだ。
「カルネ」誕生のきっかけは、まだ海外旅行が珍しかった時代に『志津屋』の創業者が行ったヨーロッパ視察旅行。ミュンヘンやウィーンで出合ったハード系のロールパン「カイザーロール」にヒントを得て、日本人の口に合うよう試行錯誤を重ねて生み出したという。
パンに挟む具材は極めてシンプルで、ハムとタマネギのみ。ハード系ながらふわりとして口溶けの良いパンと、肉々しいハムにマーガリンが調和し、シャキッとした食感とほんのり辛みを感じるタマネギが小気味よい。クリームチーズを混ぜ込んだまろやかな特製マーガリンが味の要で、パンと具材の味をバランス良くみごとにまとめ上げてくれる。
現在ではペッパー、チーズ、サーモン味も加わり、全4種類の「カルネ」が店頭の冷蔵ケースに並ぶ。冷たいままでもさっぱりとして充分美味だが、トースターなどでリベイクするとまた格別の味わいだ。生地がパリッとした食感になるうえに、具材の甘みやまろやかさが一段と増すのだ。
「意外と地元でも知られていないのですが、ぜひ一度温めて味の違いを感じてほしい」と創業者の孫で取締役の堀健一郎さん。「パンの表面が焦げる直前の焼き加減が好み」という堀さんは、かつて店頭で常連客から“焼き頃”の助言を受けたことも。いかに「カルネ」が人々に愛されているかを感じたという。
本店のほか、祇園店や三条店などイートイン可の店舗では、店内で味わう際はリベイクにも対応。朝から焼きたてを食すことができる。京都に来たら、パリッと香ばしい「カルネ」を朝に頬張り、地元暮らし気分とともに噛み締めたい。
志津屋 本店
「カルネ」230円(税込)
※ 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
*掲載情報は2022年8&9月号掲載時点のものです。
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山下崇徳(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「パン好きの京都人が愛する世代を超えたソウルフード」。