京都肉三昧
写真・伊藤 信 文・山下崇徳(アリカ)
無類の肉好きが多い京都。その肉文化が生まれた理由は一つや二つではないだろうが、隣接の滋賀県から届く「近江牛」の存在は外せない。京都人が長く愛してきた近江牛の専門店が、京都の目抜き通り、四条通沿いにある。ステーキやすき焼き、しゃぶしゃぶと、さまざまな料理で近江牛が味わえる『れすとらん松喜屋京都四条店』だ。
神戸牛、松阪牛と並び、日本三大和牛の一つに数えられる近江牛。そのルーツは、肉食が禁じられていた江戸時代、近江国・彦根藩が「反本丸」という薬として牛肉の味噌漬けを考案し、徳川将軍家への献上を許されたことに始まる。薬用の牛肉はやがて特権階級から庶民にも広がり、明治初期に肉食が解禁になると、滋賀から各地へ牛が輸送された。
『松喜屋』の初代・西居庄蔵は、牛馬商として滋賀で牛を飼育し、関東への出荷を始めた一人である。当時、陸路を2週間かけ曳いていた牛の輸送を、船・列車を使うことで流通を拡大し、近江牛の名を全国に広めた功労者だ。今はなきすき焼きの名店で、宮内省に牛肉を納めていた銀座の『松喜屋』へも肉を卸していた。
その後、1926年(大正15年)に3代目が『松喜屋』の名を受け継ぎ、大津市石山地区に精肉店を構えた。1999年(平成11年)にレストランも開くと、その評判は京都にも届くように。
そして、2011年(平成23年)、近江牛本場の名店として京都に出店を果たす。社長自らが目利きした肉を仕入れ、さらに肉の旨みや風味を増すために0度以下の低温で熟成させた肉が京都四条店に届く。
そんなこだわりの肉を存分に堪能するなら、ステーキをはじめ、八寸・椀物・揚げ物など、すべてに近江牛を使った創作コース「ステーキ割烹」を。カウンター席では目の前の鉄板で肉が焼かれ、ジューッという音と香りに期待が膨らむ。
口に運べば、とろけるような食感。脂のしつこさはなく、旨みがじわりと広がる。
赤身が強くきめ細かいサシが特徴の近江牛は融点が低く、それゆえ口当たりがよいという。添えられるのは湖塩を昆布出汁で割って固めた特製の泡塩だ。
「近江牛は肉のポテンシャルが高いので、余計な味付けはしないんです」と店長の片山俊克さん。「赤身と脂のバランスがとれた肉だから合う」という泡塩は、まさに近江牛のための〝名脇役〞だ。
ブランド和牛として国内最古の歴史を誇る近江牛。古都で牛肉を食べるなら、かつては徳川将軍家や天皇にも献上された珠玉の近江牛も、選択肢に加えたい。
れすとらん松喜屋 京都四条店
京都市下京区四条通麩屋町西入ル立売東町28 SAKIZO PLAZAビル2F
電話:075-252-0329
営業時間:11:30 ~14:00(L.O.)、17:00 ~20:30(L.O.)
定休日:なし(不定休あり)
ステーキコース8,000円~、
ステーキ割烹9,000円~(税・サ別)
*掲載情報は2020年11月号掲載時点のものです。
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山下崇徳(アリカ)さんが綴るコラム【京都肉三昧】。今回は「泡塩を添え、ステーキで食す 最古のブランド和牛「近江牛」」。