京の朝食
写真・伊藤 信 文・永野 香(アリカ)
かつて遊郭として賑わった五条楽園。往時を偲ばせる艶めかしい建物が点在する界隈には近年、個性的な飲食店やホテルが誕生。近隣にはフランス人学校もあり、行き交う人は意外なほど多国籍だ。その静かな高瀬川の畔に2021年オープン、たちまちグルマンの注目を集めているのが『汽[ki:]』だ。
オーナーシェフの長野浩丈さんは京都・東京・大阪やフランスで腕を磨き、シェフを務めた店はミシュランガイドにも載ったフレンチの巧手。しかし、祖母宅を改修し新たに店を開くにあたり、選んだのはレバノン料理だった。
「京都は外国の方も多く訪れる街。フランスをはじめ海外の都市ではよく見られるレバノン料理が僕自身好きで、その魅力を伝えたいと思いました。レバノンは日本と緯度も近く、料理に野菜をたくさん使うんですよ。ベジタリアンもそうでない人も一緒にテーブルを囲める空間にしたくて」。
京都・大原野で家族や仲間と畑を耕し、料理にはそのオーガニックの野菜やハーブがふんだんに。「季節のものを使うのは自然にも体にも良く、もちろん味も良いですからね」。
限定20食のモーニングで供されるのは自家製パン「ピタ」と、「メゼ」と呼ばれる惣菜が彩り鮮やかに載るプレート。二つに切ったピタに、好みのメゼを詰めていただく。人気の「ミックス(チキンとファラフェル)」は、やわらかく香ばしいスモークチキンにフランボワーズビネガーがアクセントの赤キャベツ、クミンが小気味良く利いたファラフェルなど約8種が並ぶ。
レモンが香るアリオリソースやフムスを付け、ピタに詰めて頬張れば個性的な味が口の中で混じり合い、不思議と快いハーモニーを奏でていく。
程よい食感の秘密の一つはピタ。国産小麦にジャガイモをたっぷり混ぜ込むことで、しっとりした生地になるという。「野菜などの水分をうまく合わせ、唾液の少ない日本の方も楽しめる味わいにしています」と長野さん。
ちなみにピタが灰色なのは、窯の残り火で炭化させた野菜の切れ端を練り込んでいるから。さらに残る野菜は畑の堆肥に。一つの素材も無駄にしない、エシカルな朝食である。
店の奥には大きな石の長テーブルが一つ。朝はそこに天窓から日が差し込み、徐々に明るさを増していく。自然の時間の経過を味わうのも“ご馳走”だ。
古都にいながら異国を旅するかのようなひととき。繊細な技が注がれた美しい一皿を堪能して、自然の力をチャージ。きっと、爽やかな一日が始まる。
汽[ki:]
京都市下京区都市町149
電話:075-585-4224
営業時間:モーニング8:00~9:45(L.O.)、ランチ11:00~14:45(L.O.)、テイクアウト11:00~15:30(電話受付9:00~14:45)
※モーニングは20食限定。要予約
定休日:水曜
「ミックス(チキンとファラフェル)」1,800円(税込)
*掲載情報は2023年3月号掲載時点のものです。
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永野 香(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「レバニーズな朝食はピタとメゼの爽やかなハーモニー」。