京都、路地のなじみ

繊細な調理法で繰り出す
多彩な「うちにく」に舌鼓

写真・橋本正樹 文・藤本りお(アリカ)

京都随一の繁華街、四条河原町のほど近く。裏寺町通と新京極商店街に挟まれて、石畳に柳が揺れる細い路地がある。「柳小路」と呼ばれる南北60メートルほどの短い通り。中ほどに小さな祠があり、その隣に暖簾の掛かるのが『御二九と八さい はちべー』だ。

店主の岡本圭司さんは、この路地をいまの姿に変えた立役者でもある。出店を考えた約20年前、寂れていた柳小路を、京都市や家主に掛け合って整備。近所の錦天満宮に相談し、北隣の「八兵衛明神」も修復した。祀られているのは、この界隈にかつてあった寺に棲んだという狸。

3匹の狸にちなみ、六兵衛明神・七兵衛明神・八兵衛明神の3社が地域の鎮守社として信仰されてきた。現在、信楽焼の愛らしい狸が迎えてくれる八兵衛明神は「八兵衛さん」と親しまれ、商売上達など8つのご利益があるという。

店は、岡本さんが「うちにく」と呼ぶ牛ホルモンの専門。実は岡本さん、明治時代に京都で創業した鰻の名店『花遊小路 江戸川』の生まれ。幼い頃から身近にあった日本料理ではなく、「もっと珍しい料理を」との思いで料理修業を重ねた末、ホルモンにたどり着いた。「ホルモンといえば、焼くか煮るかが一般的。でも部位ごとに、食感も味も栄養も異なる。いろんな調理法でそのおいしさを知ってほしかったんです」。

夜のおまかせコースでまず登場する前菜は、「ハチノス胡麻和え」「ハツモト中華和え」「アキレスポン酢和え」の3品。軟らかなハチノス、コリコリとした大動脈のハツモト、プルプルと弾力のあるアキレスと、それぞれに個性的な食感で、爽やかな調味と相まって心地良い肉の甘みが楽しめる。丸・三角・四角の器の底に、六・七・八の文字が潜む遊び心も。

ホルモンは、ヒダの奥まで丁寧に洗い、切る細さや茹でる・蒸すといった下処理の方法と時間を部位ごとに変え、絶妙な歯応えと旨みを生み出す。その技は、同業者からもアドバイスを請われるほど。

和洋中と多彩な味付けで12〜13品が登場するおまかせコースの内容は月によって変わるが、前菜と同じく定番となるのが、終盤の「牛タンハリハリ鍋」。ホルモンから取った出汁にくぐらせた水菜を、牛タンでクルリと巻き口の中へ。シメの中華そばがまた、このスープと絶妙にマッチする。

スタッフが米作りから携わるオリジナルの日本酒「佳風カーフ」や、コースに合わせたワイン主体のペアリングも楽しみ。狸が守り神の路地に佇む、ホルモンの肉割烹。和の伝統だけに収まらない、京都の食の奥深さに出合える一軒だ。

御二九と八さい はちべー

京都市中京区新京極四条上ル中之町577-17

電話:075-212-2261

営業時間:11:30~14:00、17:00~23:00(21:30最終入店)

定休日:火曜

https://www.yagenbori.co.jp/shop/hachibei/

「おにくとやさいおまかせコース」8,800円(税込)

*掲載情報は2025年12月号掲載時点のものです。

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藤本りお(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「繊細な調理法で繰り出す多彩な「うちにく」に舌鼓」。