京都、路地のなじみ

宮さまも贔屓にした
鰻の老舗が供する乙な丼

写真・三國賢一 文・白木麻紀子(アリカ)

祇園町を行き交う人々で賑わう南座前から、八坂神社方面へ向かうと程なく交差するのが大和大路通やまとおおじどおり。その通りを少し北へ歩けば、赤と水色の外観が印象的な京都祇園郵便局が見えてくる。

その北隣に格子戸のある細い路地が。敷石に導かれるように進んでいくと、大鰻の描かれた暖簾。鰻料理の『かねしょう』だ。

2000(平成12)年オープンのこの店は、川魚問屋として江戸末期に創業した『かね正』が営む食事処。初代は滋賀の生まれだったが、「明治時代、琵琶湖の水を京都に引くために造られた琵琶湖疏水とともに、今の三条大和大路に移ってきたと聞いています」と四代目藤居久士さん。

疏水の水を活用して、川魚卸の商いを京都で始めたという。その後、二代目が白焼き鰻を秘伝のタレで煮上げた「お茶漬け鰻」を考案すると大評判となり、やがてその専門店となった。京都人の見舞や進物、また映画関係者や芸舞妓の手土産などとして愛される品は、昭和天皇や三笠宮崇仁親王、映画監督・小津安二郎らが好んだことでも知られる。

そんな「お茶漬け鰻」は持ち帰りのみの品。「なじみのお客さんから『店で食べてみたい』と言われて。それで路地奥に開いたのがここです」と藤居さん。
ここでは名物の鰻を使ったお茶漬けのほか、うな丼をはじめとした丼ものに、夜は肝煮や鰻の柳川などの一品も揃う。使う鰻は、三河産を中心にすべて上質な国産だ。

鰻の商いを続けてきた老舗の技を存分に楽しむなら、店主お薦めの「まむし丼」を選ぶのも一興。藤居さんによると京都では「混ぜる」ことを「まむす」とも言い、その名の通り鰻のタレを混ぜ込んだご飯が特徴だ。

注文を受けると、この道50年の店主自ら背開きにした鰻を、ガスの直火で「地焼き」にする。焼き上げる途中には、たまり醤油に砂糖、酒を日々継ぎ足し、守り続けるタレを、二度まとわせる。

待つこと約20分。鰻のタレと炒った白ゴマを混ぜ込んだご飯に海苔、刻んだ鰻の蒲焼きがのった丼が、湯気を上げて登場!香ばしい香りとともにひと口。パリッ、サクッの皮の歯応えと、ふんわりまとわり付く軟らかな身の食感がたまらない。

あっさり上品なタレも絶妙。蒲焼きは濃い目のキツネ色ながらすっきりさらりとした後口で、ゴマと海苔の香ばしさも加わり、箸が勢いづいて止まらなくなること請け合いだ。

「お茶漬け鰻」が買える本店は、大和大路通(縄手通)を真っ直ぐ北へ5分ほど。少し足を延ばして、通好みの味を求め、自宅で楽しむのも良さそうだ。

鰻料理 かね正

京都市東山区大和大路通四条上ル二丁目常盤町155-2

電話:075-532-5830

営業時間:11:30~14:00、17:30~21:00
※昼は予約不可、夜は予約可(17:30~・19:00~の2部制)

定休日:日・木曜

「まむし丼」2,500円(税込)
※現金支払いのみ

*掲載情報は2025年7月号掲載時点のものです。

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白木麻紀子(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「宮さまも贔屓にした鰻の老舗が供する乙な丼」。