京都、路地のなじみ

柔らかな灯りが洩れる
路地奥の隠れ家で
季節のおばんざいを

写真・伊藤信 文・藤本りお(アリカ)

京都の街の通りが碁盤の目状になっているのは有名な話だが、よくよく気を付けて歩いていると、そうした道以外に、間口の狭い細い通路が奥へと伸び、その先が「どんつき(突き当たり)」になっていることがある。京都の人はそんな私道のことを「ろおじ(路地)」と呼ぶ。

そこにはかつて職人などが住んだ長屋が連なり、近年は店舗やアーティストの工房となっているところも少なくない。

そんな典型的ろおじにある一軒へ。賑やかな四条通から高倉通を南へ進むと、建物に挟まれるように細い道が伸びている。奥に佇む三軒長屋の真ん中が『お数家 いしかわ』。築100年を超える京町家は、夜になると窓の格子から柔らかな灯りがこぼれ、いっそう風情を増す。

女将の石川智早代さんがこの路地と出合ったのは、今も隣で営業するバーを訪れたときのこと。もともと食べ歩きが趣味で「女性がひとりでも気軽に入れる店にしたい」と、2006年に開店した。

料理は、京都育ちの石川さんが母の味として親しんできたおばんざいが中心。「おばんざい」とは京都の家庭でつくられてきた「おかず」で、季節の野菜を中心に出汁で煮炊きしたものが多い。

2階はテーブル席で、1階はおくどさん(かまど)のある調理場を囲むカウンターが16席。目の前には「にしん茄子」「本日の南蛮漬け」など大鉢に盛られたおばんざいがずらりと並び、食欲をそそる。

初めて訪れたなら、まずは「三種盛り合わせ」を。リピーターが多いという豚肉の燻製が香る「ポテトサラダ」や、根菜の食感をアクセントにほんのりと酢を利かせた「お野菜たくさんのさっぱり和え」といった、評判の味が3種類選べる。野菜たっぷりのおばんざいは女性客はもちろん、仕事帰りの男性客にも人気があるそう。

秋冬には聖護院だいこんや秋鮭といった旬の素材や、あんかけメニューも登場。こうしたおばんざいは昼の定食のほか、女将の天ぷら好きが高じて近くに開いた姉妹店『天ぷら おばんざい いしかわ』でも楽しめる。

京都府南部にある『城陽酒造』をはじめとする全国の純米酒に、焼酎やジンといったアルコール類も豊富。好みを伝えれば、おすすめを選んでくれる。ほの暗い照明のもと音楽が静かに流れる空間で、香り華やかな一献とともに、京の家庭料理に舌鼓を打つのは大人の安らぎ時間。

隠れ家感満載の立地で、うっかりすれば通り過ぎてしまいそうな細い路地の入口。だが、なじみの客は夜な夜な、そこへ迷うことなく吸いこまれていく。

お数家 いしかわ

京都市下京区高倉通四条下ル高材木町221-2

電話:075-344-3440

営業時間:11:30~13:30(L.O.13:00)、
17:00~22:00(L.O.21:00)

定休日:水曜、第3・4木曜
※ランチは土・日曜、祝日も休業

https://okazuya-ishikawa.com/

「三種盛り合わせ」1,000円(税込)
※ランチは現金またはPayPay支払いのみ

*掲載情報は2024年11月号掲載時点のものです。

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藤本りお(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「柔らかな灯りが洩れる路地奥の隠れ家で季節のおばんざいを」。