京都、路地のなじみ

芳ばしい香りに包まれて
美食家集う町家のフレンチ

写真・伊藤 信 文・西本遥菜(アリカ)

京都御苑の南側は閑静な住宅地ながら、老舗の蕎麦処や割烹、話題のコーヒースタンドなど、グルマン注目の店が点在するホットエリア。そこに2021年秋、一軒のレストランが誕生した。

丸太町通から東洞院通ひがしのとういんどおりを南へ進んでいくとノスタルジックな門扉、その奥に細く敷石の延びる路地を見つけることができる。『Synagerシナジェ』の入り口だ。町家をリノベーションした店内には、コポコポと音をたてる蒸留器が。予期せぬ出合いに胸が高鳴る。

店主の北岸寿規さんは京都大学で心理学を学んだ後に、飲食の道へ入った。「卒論のテーマは、広告におけるプライミング効果でした。その時に学んだことが今も多少影響しているかもしれません」。

店名はsynergy(相乗効果)に因んだ造語で、味はもちろん、五感で料理を愉しんでほしいとの想いから名付けた。なかでも味の記憶につながる「香り」を重視し、ハーブなどを巧みに使ったコースは、ワインまたは芳香蒸留水でつくるアロマティーとのペアリングで供する。

ワインバーでソムリエ資格を得たあと、「一から料理に携わりたい」と様々な店で腕を磨いた北岸さん。フレンチの名店『ベルクール』で働くことになったきっかけは、学生時代に通ったバーでオーナーシェフ松井知之さんと出会ったこと。

「ソース使いをはじめクラシックなフレンチの基礎を教わりました」。つづいて独創的なイタリアン『ristorante NAKAMOTO』で野菜の味を引き出す調理法を、祇園の和食店では昆布締めなど魚の旨みを存分に活かす技術を学んだという。さらにはメディカルハーブコーディネーターの資格も取得。フレンチを礎としつつ、美味を生み出す技を貪欲に取り入れてきたシェフである。

コースでは、旬の食材をふんだんに盛り込む。京都・大原の朝市で選んだ新鮮な野菜を炭火焼で供する「菜園」。アロマティーペアリングで合わせるのは、玄米茶をベースにシナモンなどのスパイスを利かせたティーだ。香ばしさに満ちた口中を、さっぱり柔らかな味わいが包み込む。

看板メニューとも言える「花のタルティーヌ」、この日は自家製ライ麦パンにサワークリーム、マスのマリネなどの上にバラの花びらが華やかに盛られ、思わずうっとり。大和橘を蒸留した芳香水とカルダモンなどを合わせたティーとともに爽やかな後味が楽しめる。

遠方から訪れるなじみ客の中には「京都観光は、ここでの食事のついで」という人も少なくないとか。まさに旅路の目的地になり得る、一軒なのだ。

Synager

京都市中京区東洞院通二条上ル壺屋町512-2

電話:075-600-9182

営業時間:12:00~15:00(最終入店13:00)、
18:00~22:00(最終入店19:30)

定休日:月曜(祝日は営業)

https://www.synager-kyoto.jp/

「ランチコース」(全7品)11,000円、
「ディナーおまかせフルコース」(全10品)19,800円
(共に税込・サービス料別、ドリンクペアリング付き)
※前日までの完全予約制(昼・夜各4組限定)

*掲載情報は2025年6月号掲載時点のものです。

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西本遥菜(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「芳ばしい香りに包まれて 美食家集う町家のフレンチ」。