京の朝食

三代受け継ぐ
名喫茶のホットケーキ

写真・木村有希 文・溝渕みなみ(アリカ)

三条通を越え北に延びる寺町通。地元住民が多く行き交う商店街に、端正な佇まいで立つ一軒が『スマート珈琲店』だ。1932年(昭和7年)、「気の利いたサービスができる店を目指したい」との想いから洋食店『スマートランチ』として創業。

戦後、現在の屋号に変え喫茶店となったが、三代目の元木章さんの兄・英二さんが洋食メニューを復活させた。朝から晩まで京都人が途切れることなく訪れる名店だ。

店内に足を踏み入れると、香ばしいコーヒーの匂いとともに、懐かしい雰囲気に包まれる。レトロな内装は、二代目が訪れたスイスの山小屋をイメージしたものといい、約半世紀を経て壁やテーブルの木の色は深みを増している。天井から下がるクラシカルなライトは店内を優しく照らし、初代がデザインしたシックなロゴマークは今も壁に掛かる。

三代にわたり受け継いできた空間が、訪れた人を優しく包み込み、心を落ち着かせてくれる。

ここに創業時から変わらない一品がある。「ホットケーキ」だ。昭和の歌姫・美空ひばりさんをはじめ多くの著名人から愛されてきたというホットケーキは、実は常連客の多くがおやつでなく朝食にオーダーする。卵・牛乳・砂糖・小麦粉・ベーキングパウダー・香料。創業時からのシンプルな材料とレシピを守る。

生地作りは、泡立て器で混ぜる回数が1回変わるだけで出来が違ってしまうというデリケートな作業だ。伝統の味をぶれないものにするため、必ず元木さん自らが行うという。均一な厚みの秘訣は、生地を混ぜてから少し寝かせることだとか。

クラシックなホットケーキが目の前に現れると、思わず童心に戻ったかのように気持ちが昂る。自家製シロップをかけ、しっとり染み渡った生地を頬張れば、上品な甘みとリッチな風味が広がる。コーヒーを引き立てる味わいに、男性のファンが多いというのもうなずける。

コーヒーは自家焙煎とネルドリップで提供され、飲んだ後も心地良い旨みが残るよう計算されている。そのコーヒーの後口とホットケーキのハーモニーがたまらない。

「『スマート珈琲店の味やな』と言われるのが一番の褒め言葉。そのためには同じように作り続けることが何より大切ですね」と元木さん。いつ来ても同じものを、同じように味わえる。それがスマート珈琲店を安心できる場所たらしめる所以。ホットケーキの優しい甘みに肩の力が抜けてホッとする、そんな穏やかな朝のひとときをぜひ。

スマート珈琲店

京都市中京区寺町通三条上ル天性寺前町537

電話:075-231-6547

営業時間:8:00~19:00(L.O.18:30) ※2階ランチは11:00~14:30(L.O.)

定休日:なし ※2階ランチは火曜休

https://www.smartcoffee.jp

「ホットケーキ」750円(税込)

*掲載情報は2023年1&2月号掲載時点のものです。

Recommends

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

溝渕みなみ(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「三代受け継ぐ名喫茶のホットケーキ」。