京都、路地のなじみ

御所東で滋味に唸る
至福のくつろぎ割烹

写真・武甕育子 文・山部沙織(アリカ)

車が行き交う河原町丸太町の交差点を西へ少し進むと、北西に細い路地が延びている。奥に京都御苑の緑を望みながらその静かな路地を歩くと右手に、厄除けの神"鍾馗しょうきさん"を瓦屋根に乗せた町家が現れた。『割烹しなとみ』だ。

戸を開けると出汁の香りがふわり。優しい色合いの土壁とアフリカンマホガニーのカウンターが目を引く。奥から髙橋集一さん・綾子さん夫妻が笑顔で迎えてくれた。

祇園『割烹 梅津』の大将・梅津直人さんの元で15年修業を重ねた集一さんは、和食店の料理長を経て独立。綾子さんとともに「コースもアラカルトも気軽に楽しめる店を」と2021年に『割烹しなとみ』を開いた。コロナ禍で緊急事態宣言が出るなど試練もあったが二人三脚で乗り越え、今や作家の柏井壽さんをはじめ名だたる食通も訪れる人気店だ。

アラカルトの中でとりわけ評判なのが、炭をくべた焜炉こんろで供される白味噌鍋。京都の老舗『御幸町 関東屋』の白味噌を使い、京都産黒毛和牛や時季の野菜が盛りこまれる。口に運ぶと……うまい!

甘すぎず、ほどよいとろみの白味噌仕立てに軟らかい牛肉とシャキシャキの九条ねぎが絶妙に調和する。京都では白味噌の汁などに添えるのが定番という練り辛子で味がきりりと引き締まり、箸が止まらない。

さらに感動を覚えたのが、やはり人気だという根三つ葉のお浸し。「おだしを飲んでいただけるよう、飲みやすい器でお出ししています」と綾子さんが言う通り、碗形の小鉢にはたっぷりおだしが張られている。三つ葉の旨みがじんわり溶け出した美味しさに、一気に飲み干してしまった。

聞けば、仮漬け、本漬けとおだしに二度漬けすることで、三つ葉の余分な水分が抜け、旨みがより感じられるのだとか。ベースとなる基本の出汁は、雄・雌、血合いあり・抜きの4種を混ぜた『しなとみ』ブレンドの鰹節と利尻昆布から引く。食材は調味料や揚げ油を含め製造工程まで確かめ、無添加を貫いている。その徹底した素材選びと誠実な料理に惹かれ、修業時代から数えると25年通うなじみ客もいるのだそう。

カウンターにあえて白木の杉や檜を使わず、調理着も「いかにも日本料理」らしいものは避けているという髙橋さん夫妻。「堅苦しいのは苦手なんです。お客さんにはリラックスしながら、きちんとした和食を楽しんでいただきたくて」と笑う。店で感じる不思議な居心地の良さに合点がいった。

この気取りのなさと、丁寧につくり込まれた料理のギャップこそ、人々が何度も足を運びたくなる理由なのかもしれない。

割烹しなとみ

京都市上京区信富町315-4

電話:075-366-4736

営業時間:17:30~22:00(最終入店19:00)

定休日:水曜、月2回不定休あり、完全予約制

https://shinatomi.com/

「京都産黒毛和牛と海老芋の白味噌鍋」6,000円、「根三つ葉と花びら茸のお浸し」1,200円(共に2人前、税込)

*掲載情報は2026年1月号掲載時点のものです。

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山部沙織(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「御所東で滋味に唸る至福のくつろぎ割烹」。