京の朝食

丹後の土と海が
育んだ生命を
そのまま朝の食卓に

写真・木村有希 文・坂本綾(アリカ)

穏やかな水の流れに、芽吹き始めた柳が影を映す。京都らしい艶やかさと郊外の落ち着きが同居する早春の白川は、清澄な空気を楽しむ朝の散歩が心地よい。

そのほとりに店を構える『丹』の戸を開けると、まず、温かく体を包むような出汁の香気に迎えられる。そして大きなダイニングカウンターの向こうには、オープンキッチンで立ち働く料理人たちの笑顔。

ここは、京料理の世界に新風を吹き込み続けてきた料亭『和久傳』が2016年に開いた〝小さな台所〞。店名には、同社のルーツである京都・丹後半島で育まれた「本当にいいもの」を紹介したいという思いと、丹という文字の持つ「小さな真心」の意味が込められているという。

友人や親戚の家を訪れた時のような、隔てのない雰囲気にふと肩の力が抜ける。

朝食は1種類。ご飯と味噌汁に丹後の蒸し野菜、季節の和え物、へしこの炭焼き、特別濃厚卵、自家製漬物などが並ぶ。一見家庭の食卓と変わらないようだが、たとえばご飯は丹後の自社田で社員自ら育てた米を土鍋で炊きあげたもの。蒸して、煮て、和えて、漬けてと多彩に供される旬の野菜は、丹後の農家が自然農法で育てたもの。

素朴なほどにシンプルだからこそ、素材のよさと調理の手際が光る「御馳走」だ。情報に敏感な観光客はもちろん、紹介で訪れる人が多いのもうなずける。

京の朝食

「朝食は一日の活力になる最初の大事な食事ですから、バランスよく、心身ともに健康な一日のお手伝いとなるよう心掛けています。野菜を中心とした献立もその一環です」と話すのは、店長の山手陽介さんだ。

『高台寺和久傳』を皮切りに、『和久傳』各店で13年にわたり磨いてきた腕を振るい、気候により作柄の変わりやすい自然栽培野菜の扱いや、日本料理ならではの季節感豊かなプレゼンテーションに細心の注意を払っている。

「食べることは生命をいただくことと言われますね。だからこそ『丹』では、野菜もよいところだけを選ぶのでなく、皮まで含めた丸ごとの生命力を生かしきる調理を心掛けています」。

種類豊富な野菜料理や香ばしいへしこをお供に、もっちりホカホカのご飯を口に運んでいると、甘みや旨み、酸味、ほのかな苦みなど、多彩な味わいに舌と心が美味しく目覚めていく。

2膳目を濃厚な卵かけご飯で締めくくったら、2階へ移り、コーヒーなどのセルフドリンクでひと息。きらきら揺れる白川の水面を見下ろしながら、さて今日はどんな一日にしようかと計画を練るのも楽しい。

京都市東山区五軒町106-13 三条通白川橋下ル東側

電話:075-533-7744

営業時間:朝食8:00~、9:00~(2部制)、
昼食12:00~14:30(L.O.14:00)、
夕食18:00~22:00(L.O.21:00)

定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)

  • ほか不定休あり
  • 店休日翌朝の朝食営業は休

「丹の朝食」2,750円(税込)

※ 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2022年3月号掲載時点のものです。

Recommends

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

坂本綾(アリカ)さんが綴るコラム【京の朝食】。今回は「丹後の土と海が育んだ生命をそのまま朝の食卓に」。