京都肉三昧

舌触りで感じる肉の旨さ
京の洋食「ビフカツ」

写真・伊藤 信 文・藤本りお(アリカ)

文明開化の旗を掲げ、欧米文化を積極的に取り入れた明治期以降、ハレの日の食事の一つとして愛されるようになった洋食。仔牛や羊などの肉に衣をつけて油で焼いたフランス料理「コートレット」が語源とされるカツレツは、その代表的なメニューの一つだ。「カツ」といえば豚肉を指すことの多い関東と異なり、関西では松阪・近江・神戸など、和牛の名産地が近い土地柄ゆえだろうか、牛肉を使ったビーフカツレツがもっぱら親しまれている。

京都には、そんな「ビフカツ」が高い人気を誇る店がある。上京区にある『京都御苑』の南、閑静な住宅街に佇む『肉専科はふう』。大正時代創業の食肉卸店に生まれたオーナーが、和牛のおいしさをもっと気軽に知ってほしいと、1999年(平成11年)から開く洋食店だ。

「極上牛ビフカツ」は、黒毛和牛のフィレ肉を使用。背骨内側の動きが少ない部分のため、肉質の軟らかさが最大の特徴だ。それを活かすため、箸に伝わってくる感触で火の入り具合を絶妙に見極め、レアに揚げる。その厚くジューシーな肉を極細のパン粉を使った薄衣が包む。創業以来、注ぎ足して作られるデミグラスソースをたっぷり付けて一口。サクッとした衣から現れる、脂控えめでほのかな甘みをもつ赤身は、その舌触りのなめらかさが秀逸。噛むごとに旨みが口の中に広がり、その余韻にいつまでも浸りたいほど。白いご飯に載せていただくのも、至福のひとときだ。

極上牛ビフカツ

『肉専科はふう』では、あえてブランド牛にはこだわらず、その時入荷する上質な肉を使うのが信条。「日本各地には、あまり知られてはいないけれど、おいしい肉がたくさんあります。そんな肉を手頃な価格で味わえる、日常使いできる店にしたいんです」と、店長の柏倉康宏さん。その言葉どおり、店内は地元客や全国各地から訪れる人でいつも賑わっている。「地元のお客様の中には、ご高齢でもペロリと召し上がる方もたくさんいらっしゃいます。小さい頃から牛肉に親しんでいるからこそ、歳を重ねても楽しまれ、お元気なんですね」。親子で通う常連客もあり、肉好きの京都人が愛する、なくてはならない一軒だ。

ちなみにこの「極上牛ビフカツ」は、「極上和牛カツサンド」としてテイクアウトも可能だ。芸舞妓や芸能関係者への手土産として人気が高まり、これだけを求めにわざわざ遠方から訪れる人もいるという。今や忘れられない京の味の一つに数えられている。

肉専科はふう 本店

住所:京都市中京区麩屋町通夷川上ル笹屋町471-1

電話:075-257-1581

営業時間:11:30~13:30(L.O.)、17:30~21:30(L.O.)

定休日:水曜

極上牛ビフカツ 5,200円、極上和牛カツサンド5,000円(共に税込)

*掲載情報は2020年5月号掲載時点のものです。

Recommends

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

藤本りお(アリカ)さんが綴るコラム【京都肉三昧】。今回は 「舌触りで感じる肉の旨さ 京の洋食「ビフカツ」」。