京都、路地のなじみ

大らかな大将がもてなす
花街の洋風割烹

写真・伊藤信 文・永野 香(アリカ)

京都・五花街の一つ、宮川町。団栗橋どんぐりばしそばから南下する、石畳の宮川町通にはお茶屋や元お茶屋の建物を使った店が連なっている。2025年に新装開場した宮川町歌舞練場の前を過ぎたら、ひとつ目の角を東へ。ひっそりした路地の奥へと進めば『宮川町 さか』が現れる。

店は、築年不詳の元お茶屋。初めてのおとな いはやや緊張を伴いそうだが、扉を開ければ、カウンター向こうの厨房に立つ大将・坂登志夫さんの大らかな笑顔が、それを吹き飛ばしてくれる。

坂さんは大阪の老舗洋食店を皮切りに大阪・京都で腕を磨き、1998年に祇園で『ビストロ さか』を開業。2008年5月、現在地に『宮川町 さか』を開いた。アラカルト主体の割烹スタイルで、イタリアンとフレンチの技法を駆使し、旬の食材を盛りこんだ皿に仕上げていく。1階はカウンター、2階に掘りごたつとテーブル席の二つの個室がある。

「調理法は、お客さんの気分に応じて。そのほうがおもろいでしょ」と坂さん。たとえば、活きのいいクエがあれば「まずは炙り。そのあとカルパッチョで」といったオーダーが可能。「メインも前菜もパスタも、順番は気にせず好きなように頼んでください」。

この日のひと皿は、ホワイトアスパラの温サラダ。香川産ホワイトアスパラに、秋田・大仙産の山菜「ひろっこ」とつぼみ菜などを合わせた、春の一番人気メニューだ。クリーミーなアスパラにシャキシャキのひろっこ、ほろ苦いつぼみ菜のハーモニーに心が弾む。旬菜の味を引き立てるのは、2年熟成のパルミジャーノ・レッジャーノと、削った生ハムをさっとゆがいて取る"ハムのジュース"。春の風味を消さない軽やかなコクの秘密がこれだ。

「繊細な味」「胃にもたれない」と評される『さか』。真昆布からとった出汁を使うシーンも多いとか。「魚の出汁と違って、くどくならない。何時間も煮こまずサッと出来るのもええなあ! と思ってね」と坂さんは茶目っ気たっぷりに笑う。和の技法も巧みに取り入れた品の良い味と、自然と肩の力が抜ける坂さんとの会話に惹かれ、長年通う常連客は数知れず。中には創業当初から28年通い続ける90代の夫妻もいるとか。

二つの花街に育てられたという店はお茶屋からの信頼が厚く、芸舞妓のなじみも多い。訪れた人の緊張をほぐす術は花街仕込みか、あるいは坂さんの天性の技か。「緊張してたら、味がわからへんでしょ。そやから、いかにほっこりしてもらえるか、『おもろかった』と帰ってもらえるかと、いつも考えてます」。温かなもてなしに浸れる、洋風割烹である。

宮川町 さか

京都市東山区宮川筋4-319-1-5

電話:075-531-1230

営業時間:昼12:00~(要予約、コースのみ4名~)、夜17:00~22:00(最終入店 1階21:00、2階20:00)

定休日:日曜(連休時は最終日)、月2回月曜不定休

https://www.miyagawacho-saka.com/

「ホワイトアスパラと春山菜“ひろっこ”温サラダ、 パルミジャーノ・レッジャーノ添え」3,520円(税込)、写真は半人前。サービス料別途10%

*掲載情報は2026年5月号掲載時点のものです。

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永野 香(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「大らかな大将がもてなす花街の洋風割烹」。