京都、路地のなじみ

野菜の風味と快い食感
花街で認められた京の漬物

写真・畑中勝如 文・石嵜綾子(アリカ)

鴨川のほとりから二条通を東へ進み、二つ目の角から細い路地を北へ進むと、瓦屋根の小さな店が現れる。朝からつぎつぎと地元の馴染み客が訪れるここは、創業約80年の『加藤順漬物店』だ。

木屋町にあった漬物店で少年時代から奉公していた初代は、戦後に独立。奉公時代に知り合った祇園の料理店の女将や仲居などに試食してもらって、味作りに励んだ。当初は花街のお茶屋やその周辺の料亭へ一軒一軒御用聞きに出向き、行商していたという。そこで芸舞妓や旦那衆に味を認められ、創業から2年ほどで店を構えることに。やがて評判が広がり、漬物店の多い京都にあって、知る人ぞ知る店となった。

緑と白の鮮やかな縦縞の暖簾をくぐると、店内には約30種類の色とりどりの漬物が並ぶ。一番人気の「舌つづみの志ば漬」は胡瓜に茄子、しそ、茗荷、生姜の塩漬を調味し詰め合わせたもの。歯切れ良い野菜の食感を楽しむには、粗切りにするのがおすすめだ。こちらは割烹やラーメン店など京都の人気店のメニューの中でも提供されてきた。

さらに、季節が感じられる品々も見逃せない。中でも、秋冬限定の千枚漬と、晩秋と早春に摘みとる菜の花の漬物は店の看板商品。京都の伝統野菜、聖護院かぶらを天然物の利尻昆布と塩などで漬けた千枚漬は、かぶらの甘みと昆布の旨みがたまらない逸品だ。

春に人気の「摘みたて ちりめん菜の花漬」は、創業当初に初代が考案したもの。当時の一般的な菜の花漬は、花をびわ色になるまで糠漬けにしたものだったが、初代は鮮やかな色を残すために花が咲く前の蕾を浅漬けにし、美しい緑色にほんのり黄色がにじむ彩りに仕上げた。その斬新な菜の花漬は、たちまち話題に。甘みがある茎にほろ苦い蕾と、まさに春の滋味である。

「塩の振り方が味を決める。重石おもしは漬物の命」と語るのは、長年の勘と経験で店の味を守る二代目店主、加藤孝造さん。漬物は、店の奥の工場で下漬けから本漬けまで行う。保存料は使用せず、塩味は控え目であっさり、上品な口当たり。野菜の風味と旨みが存分に感じられ、ついつい箸が進んでしまう。

今や全国各地にファンを持つが、店舗はこの一軒のみ。「儲かるようになっても表に出たらあかんと、先代が」と加藤さん。店の場所や規模を変えるよりも、作業場を広げ、漬物作りの環境を整えることを大切にしてきたという。「狭い路地で小さい店を見つけてもらうのも、京都の魅力の一つなんちゃうかな」とも。唯一無二の味を求めて足を運ぶお客が、今日も路地の奥へと吸い込まれていく。

加藤順漬物店

京都市左京区二条大橋東入る大文字町165-2

電話:075-771-2302

営業時間:9:30~18:00

定休日:水曜

https://www.katojun.jp/

「摘みたて ちりめん菜の花漬」810円 、「舌つづみの志ば漬」赤・白 各648円(共に税込)

*掲載情報は2026年4月号掲載時点のものです。

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石嵜綾子(アリカ)さんが綴るコラム【京都、路地のなじみ】。今回は「野菜の風味と快い食感 花街で認められた京の漬物」。