銀座の不思議
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
俗に銀座8丁といい、街区は縦横に走る街路でほぼ四角形に分けられている。
その中央はひときわ広い晴海通りと中央通りで区切られる。ちょうど、交差するところが銀座4丁目の交差点。この交差点の地下には、その大通りに寄り添うように地下道が通っている。さらに中央通りの地下には地下鉄(現・東京メトロ)銀座線の線路があり、晴海通りの地下は地下鉄日比谷線になる。
すなわち、銀座4丁目は表通り、地下道、地下鉄駅という三段構えになっているのだ。
また、地下道はその隣接するビルの地階と繋がっていて、直接、デパートに入れたり、ほかの商業施設に雨に濡れないで入れるという利点が生まれることになる。
天候が悪くても、買い物客はそれぞれの最寄りの駅で乗車したあと、地下鉄に乗り継ぎ、地下鉄銀座駅で下車して地下道を歩いて、しかるべきビルに入れば、傘を差さずに買い物ができる。
しかし、最近かなり長い間、銀座の地下は再開発の工事中で、とても日本を代表する繁華街とはいえないような状態だった。
言うまでもなく、来年に控えた東京オリンピックに備えてのリニューアルだ。
都内でもほかの繁華街が急速に高層ビルに建て直していて、その相貌を激変させている今日この頃ではあるが、銀座はそれをよしとせず、建物の高さ規制などで景観を保っている。
これも銀座の矜持であり、いつまでも大人の街というイメージを裏切らないための方策だろう。
そして、この地下鉄銀座駅を中心にした駅構内から地下道にかけてのリニューアルがこのたび完成した。なかなかに節度ある意匠で、華美にならず、落ち着いた色合いの中で、地下鉄の路線ごとに色を変えることで利便性も保っている。
銀座4丁目交差点の地下鉄駅の天井には、地下にいても方向が分かるオリエンテーションサインがあり、それは一つのパワースポットというか、人々を集める磁場となった。
かの関東大震災で壊滅的な打撃を受けた後の奇跡的な復興に匹敵するといったら言い過ぎだろうか。
長い時間を隔てて、何度も生まれ変わりながら、それでも銀座としてのポリシーはけっして失われることがない。これもまた一つの不思議だ。これからも、人知れず、あるいは知る人ぞ知る銀座の魅力を訪ね歩きたいと、新装なった4丁目の地下道で思うのだった。
これまでは銀座に〝謎〞を観察してきたが、これからは銀座に〝不思議〞を発見したい。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2021年1&2月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座の不思議】。「100年ぶりの銀座再復興?」。