銀座の不思議

街路樹で変わる、
銀座中央通りの顔

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

初冬の銀座中央通りを歩くと、不思議な甘い香りに包まれることになる。

東京五輪の開催を目指して、様々なリニューアルが進んだ銀座だが、ご存じのように開催は越年。しかし、これを奇貨として生まれ変わった銀座を堪能できることになった。

銀座中央通りの街路樹が、東京五輪を目指して、心機一転、植え替えられていたことをご存じだろうか。

これまでのイチイがカツラに植え替えられた。イチイは常緑樹の低木であり、カツラは落葉樹の高木だから、印象はかなり変わる。

銀座といえばヤナギだろうという声も聞こえるが、ここに至るまでには、様々な紆余曲折があったのだ。たかが街路樹と侮るなかれ。明治の初めにはサクラやマツが植えられていたというが、土壌が合わず、10年足らずで後に象徴となるヤナギに植え替えられることとなったといわれている。

1968年にヤナギの樹勢が弱ってきていたために、シャリンバイに植え替えられる。ヤナギが大気汚染に弱いことも原因だろうか。

イラスト・駿高泰子

しかし、シャリンバイとは聞き慣れない名前だ。僕はこの時代を一番よく知っているはずなのに、記憶にないのが情けない。これも2004年には、イチイに替わるのだが、なんと、イチイはふさわしい本格的な街路樹の種類が決まるまでのピンチヒッターだった。

こうして試行錯誤の結果、ついに銀座の顔として登場したのがカツラであった。
最終的には、銀座1丁目から8丁目までの左右で140本ほどが植えられることになった。

さすがに最終候補として残ったというか選定されただけのことはあり、カツラは四季折々の顔を持ち、それぞれが楽しめる。

円錐状の樹形が美しく、20メートル近くにまでなる高木であり、新緑の美しさにも定評がある。葉はハート型で、適度な間隔を空けるので、風にそよぐ姿にも可愛らしい風情があるといわれている。

秋には黄色く色づき、いわゆる紅葉が季節感を演出するだろう。

特筆すべきは、落ち葉が甘い香りを出すという不思議な現象だ。近づいただけでも砂糖菓子のような香りに包まれるというが、一説には醤油の香りという表現もあり、これは現地に赴いていただくしかないだろうか。

比較的、病虫害にも強く、名前の由来は香りが出るから〝香出ラ〞とも。

たかが街路樹、されど街路樹。なにげなく通過してしまう街路樹にもこれだけの変遷と試行錯誤があり、時間をかけた選定の過程を聞けば、関係者各位のこだわりがわかる。この何事にも手を抜かず、気配りをするというのも銀座の粋というものか。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。

*掲載情報は2021年4月号掲載時点のものです。

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山口正介さんが綴るコラム【銀座の不思議】。「街路樹で変わる、銀座中央通りの顔」。