銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
叔母の嫁ぎ先は、江戸時代から東京在住で、邦楽関係の家柄であった。したがって古くからの日用品が現役で活躍していた。
子どものころ、この家に遊びにいくと、それこそ明治、大正から受け継いだ玩具が幾つも残っていた。
古いものを大切にするという伝統が、この一家には根付いていた。
そんな、ちょっとした玩具は当然のことながら、今でいうところの民芸品であり、もちろん木製だった。
その多くは色々なサイズの独楽であり、中には、回すと内部に仕掛けられた小さな木製の円盤が時計仕掛けのようにクルクルと回転するのもあった。
また、民芸調のこけし人形なども何点か残っていた。はじめて見るのに、なんだか懐かしいような気持ちがしたものだ。
一方のわが家は新しいものが好きな家族であり、親が僕に買い与えるのはブリキやビニール製の、どちらかといえば外国の香りがするものだった。
それゆえに、木製のものは、ある種の無い物ねだりというか、憧れであり、従兄弟たちと古民具で遊ぶのは、懐かしいことでもあった。
銀座を紹介する小冊子に木工玩具らしきものとチェスボードの写真があり、そんな郷愁も手伝って、銀座7丁目の『木の香』を訪れた。こざっぱりした明るい店内には、こけしとマトリョーシカが整然と並んでいる。
こけしは、骨董品とか民芸品というような古風なものではなく、改めて見てみると、なかなかにモダンで、各サイズのマトリョーシカも可愛らしくて、新鮮であった。
陳列のかたわらに、まだ木型だけで着色されていないこけしが並んでいるので、これはこれで面白いとも思ったのだが、ウッドバーニングという技法で生地のこけしなどに模様や表情をつけていく工作だとのことだった。
そして、この店内で、そのウッドバーニングの教室も開かれているという。
お人形には、骨董品としての位置づけや、とかくその故事来歴に意味深なところがあり、何となく敬遠する傾向があったのだが、このお店の人形たちには、そんな気配は感じられない。むしろ、清々しく、新鮮な新しい息吹を感じることができる品々だった。
この日は、内部に電飾が配置されている、とても小さな、掌に乗る金属製のオブジェも展示されていて、間口の広さを想像できるものだった。
伝統に裏打ちされているとはいえ、新しい感覚の郷土玩具も、なかなかに魅力的なもので、面白い経験をさせていただいたと感じている。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2025年12月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「木製玩具の懐かしさ」。