銀座の不思議

神も仏も、
銀座の屋根に

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

銀座も商いの街であるから、昔から神社仏閣にことかかない。おそらくは辻々に天神様やら地蔵堂があったのではないか。何年か前、ある雑誌の企画で銀座八丁に現存する神社を余さず回ることになった。

目的の神社は、さすがに土地柄だけに、歩行者一人がやっと通れるようなビルの谷間に鎮座していることもある。また、ビルの中に併設されているものは、ご多分に洩れず、建て替えやら改修工事中で一時的に閉鎖されている社殿などもあった。

なんといっても、銀座の天神様やお地蔵様の特徴は、高層ビルの屋上にあるということだろうか。

『銀座三越』の屋上にあるのが、三囲神社と地蔵尊で、三囲様は確か下町にある同名の神社に関係があったと思う。地蔵尊のほうは、出世地蔵と呼ばれている。土中から発見されて、やがて屋上まで上りつめて出世したということらしい。

『松屋銀座』の屋上にあるのが龍光不動尊。こちらは昭和4年に高野山龍光院から移された不動明王で、仏教のお寺だから、参拝の折に柏手を打ってはいけない。どうも、ついうっかりする人もいるらしい。

建立自体は新参者ということになるかもしれないのが『GINZA SIX』の屋上にある靍護稲荷神社だが、元々は銀座でも最古参。文化12年に京都の伏見稲荷大社から江戸は根岸の里に奉安され、さらに昭和4年に旧『松坂屋銀座店』の屋上に分霊を遷座したというから、相当、年季が入っている。

イラスト・駿高泰子

これはもう、銀座の不思議としかいえないのが朝日稲荷神社だ。

一見、商店街によくある、ビルの狭間に鎮座するお稲荷さんのように見えるのだが、これは拝殿であり、本殿はビルの屋上にある。

古くから銀座の地に鎮座する由緒ある神社であり、安政の大地震、関東大震災、先の大戦の戦火に見舞われるという、数多くの災害にあいながらも、その都度、復興している。これを奇貨として商売繁盛の御利益ありといわれる。

本殿に参拝するためには、建物をぐるりと回ってエレベーターで8階まで上がり、外階段で屋上まで。銀座の街が一望できるのだが、高所恐怖症の方は大変かもしれない。たどり着いた屋上の社殿で二礼をしたところで社殿の鈴がシャランと鳴った。

これは不思議なこともあるもので、僕の祈りが届いたのかと思ったら、下の拝殿で鈴を鳴らすと、拝殿にマイクがセットされていて、屋上の本殿のスピーカーからその音が流れる仕掛けだという。

伝統と新しさが融合していて、銀座の不思議といえる所以である。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。

*掲載情報は2022年1&2月号掲載時点のものです。

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山口正介さんが綴るコラム【銀座の不思議】。「神も仏も、銀座の屋根に」。