銀座より道、まわり道

銀幕は永遠に輝いて

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

銀座は高級な飲食の街であり、お洒落な衣料品を並べたブティックが軒を連ねている。そんな華麗な場所であると同時に、博品館や能楽堂、歌舞伎座を擁する歌舞音曲の街でもある。ライブハウスも多い。

かつては、映画館も乱立といっていいほど何館もあった。改修前の三原橋の地下街だけでも3館はあったのではなかったか。

また映画配給会社も、その多くが銀座に事務所を構えていて、各社内に小さな映画館、つまり試写室を持っていた。

そんな映画館の数々も、近年はその数を減らし、いわゆる銀座八丁の中にあるのは『シネスイッチ銀座』と東映の封切館ぐらいか。東宝は日比谷だし、松竹は築地になる。今はそんなことなのだが、シネスイッチには古い思い出がある。

かつて『シネスイッチ銀座』は『銀座文化劇場』(1955年開館)と呼ばれていた。そして、その最上階に小さな試写室があった。

すでに映画評論の仕事を始めていた僕は、ある日、その試写室に赴いた。ちょうど前の試写が終わるところで、映画は『ガキ帝国』だったと記憶しているから1981年のことか。僕が観に行ったのはフランス映画社が配給する作品で、たぶん『ブリキの太鼓』だったと思う。

試写室の前にある、受付がわりの廊下にフランス映画社の副社長だった川喜多和子さんが立っていた。

和子さんは父の畏友、伊丹十三さんの元夫人である。僕は子供の頃から、よくご夫妻とリゾートやレストランにご一緒していた。和子さんは僕が映画好きということをご存じで、自社の配給作品の試写には必ずご招待いただいていた。

とはいうものの、すでに離婚されてから時間が経っていて、二人だけで廊下にいるのは、ちょいとばかり気まずい雰囲気ではあった。

それでも、和子さんが「ずいぶん早く来るのね」とおっしゃるので、「好きな席を確保したいから」と答えると、我が意を得たり、という感じで微笑まれたので、僕も気が楽になった。

そんな思い出もあるこのビルだったが、1987年に、2館のうち1館を『シネスイッチ銀座』と改称、邦画と洋画を交互に上映するので“スイッチ”としたのだとか。

1989年の『ニュー・シネマ・パラダイス』の爆発的ヒットが記憶に残るが、『モーリス』『デリカテッセン』『グラン・ブルー』など良質な傑作を次々と公開して現在に至る。1997年に2館を『シネスイッチ銀座1・2』としてリニューアルオープン。銀座4丁目交差点から至近距離に映画館があるのは映画好きにとって、大変ありがたく、昭和レトロなロビーも楽しい。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。

*掲載情報は2024年4月号掲載時点のものです。

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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「銀幕は永遠に輝いて」。