銀座より道、まわり道

外堀通りの古典的名曲喫茶

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

多くの観光客、行楽客がショッピングを楽しむ銀座の中、静かに佇む昔ながらの店構えが嬉しい。この辺りは西銀座と名づけられているので『銀座ウエスト』という店名になったのだろうか。

昔風にいえば名曲喫茶ということになる。正面の扉を開けて入れば、左手には創業当時からのコレクションであるSPレコードのアルバムが収められた書架が出迎えてくれる。面している大通りは、電通通りの通称で知られる外堀通りである。交詢社通りから西は西銀座通りという通称で呼ばれることもあるようだ。

ともかく、創業は1947年というのだから、その歴史は長い。そして、内装も当時の面影を色濃く残している。白いカバーの椅子と、やや小ぶりなテーブルが懐かしい。

電通通りと呼ばれていたのは、斜め向かいに当時の電通本社があったからで、そんなことから『銀座ウエスト』は業界人が打ち合わせなどに使用することが多かった。また、宣伝マンだけではなく、出版関係の利用者も目立った。

編集者時代を含めて父、山口瞳は銀座に出ると『銀座ウエスト』を利用することが多かった。後に映画監督となる伊丹十三(当時は一三)はその頃、デザイナーで、瞳とこの店で仕事の打ち合わせをすると、二人して夜の銀座に繰り出したものだった。

それが今から70年も前のことなのにも驚かされる。僕が利用するようになってからでも50年以上が経過している。最近はSNSなどで好評なのか、行列ができる名店となった。サンドイッチなどの軽食もメニューに豊富にあり、小腹を満たすのには最適である。

近所の老舗のご主人などがちょっと一服する時間を過ごす場所でもあり、カウンターの上に小型テレビが置かれて相撲中継などが見られるのは、こうした旦那衆に対するサービスでもあるのだろう。やはり古を知るものとしては懐かしくもある喫茶店の風景ではある。昭和時代にタイムスリップした感がある。

名物のシュークリームやモンブランもさることながら、僕はエクレアを選ぶことが多い。コーヒーはおかわり自由というサービスで、確かに飲み終わった瞬間に、もう一杯と思えるところも伝統の味である。フロア担当の女性たちの仕事ぶりもキビキビしていて嬉しくなる。

お土産にはリーフパイが最適。各種の詰め合わせも魅力的だ。これから行きつけの店に出向くとき、ちょいと『銀座ウエスト』の菓子折りを手土産に、などというのも粋ですね。僕も子供の頃、銀座のバーから帰って来た父のお土産といえば、このリーフパイの出番が多かったように記憶している。

ともかく、とかく新規参入の多くなった銀座にあって、昔ながらのよき時代を今に残しながら末長く変わらずにいてもらいたい。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。

*掲載情報は2026年3月号掲載時点のものです。

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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「外堀通りの古典的名曲喫茶」。