銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
数寄屋橋交差点にあったソニービルには思い出がある。
地下にレコード店があり、ここで中古の海外盤を購入された方も多いだろう。その同じフロアに近未来的なカフェがあり、ここを19の春に、初めてのデートの待ち合わせ場所とした。
僕は緊張して1時間も前に到着し、彼女は初めてのメーキャップに手間取り、1時間も遅刻してきた。これは、不首尾に終わる、その後のことを予感させるような初デートだった。
そういえば、最上階にあったイタリア料理の店で結婚披露宴を催した友人もいた。父に連れられて、地下のフランス料理店のバーで時間をつぶしていたこともあった。
カメラがデジタルになった頃、ソニー製だったので、このビルにあったサービスセンターで使い方を教えてもらったこともある。
月日は流れ、僕も40代となり、さすがに大人の恋を経験している。1階というか、少し階段を降りる半地下のパブ・カーディナルで、お付き合いしていた方と待ち合わせた。ともかく、銀座に出れば、必ず寄っていたのがソニービルだった。
それが建て替えられることになったのだ。その敷地は銀座ソニーパークとなり、さらに2025年1月、新たに3年あまりの工事期間を経て、完全に新しいコンセプトと共に帰って来た。
その威容は、たとえば映画の『DUNE/デューン 砂の惑星』に見られる、超未来のデザインが古代文明に影響されたような荘厳さを感じさせる。
コンクリートの打ちっぱなしというスタイルだと思うが、これも春先に公開された映画『ブルータリスト』に描かれているブルータリズムという建築様式を踏襲したものか。
外観も近未来的だが、近づいてみると複雑に組み合わされた階段がエッシャーのだまし絵のように入り組んでいる。
はて、どうしたものかとビルの中に入って歩きだすと、この迷路を思わせる階段が、実は非常に歩きやすいことに、これまた驚かされた。地下2階、3階、4階はギャラリーのようなスペースになっていて、最新のデジタル技術を応用した音や映像の展示会場となる。
オープニングなど特別の催し物だけかもしれないが、展示エリアに入場するためには事前の予約が必要だった。これは来場者にゆっくりと見学して貰いたいという考えからだろう。ただし、屋上階と地下のレストランは常に開放されているようだ。
そして、この最新のランドマークで、またどなたかと待ち合わせなどしたいものだと、無謀にも思っているのだった。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2025年5月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「新たなランドマーク」。