銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
もう四半世紀も前のことだが、取材でニューヨークを訪れた際に、何かマンハッタンらしい土産はないかと考えて、選んだのがチェスの駒だった。
グリニッジビレッジのワシントン広場近くに専門店があった。駒は古典的なものを選んだのだが、盤は荷物になるので帰国後に日本で買うことにした。
すでに、あの店ならばそれなりのものがあるだろうと、見当をつけていたのが銀座の『博品館』だった。果たしてシンプルで華美にならず、基本的な一品があり、サイズも妥当だった。
ハリウッド映画などを観ると、応接間に指しかけのチェスボードが、知性とセンスの良さの象徴のように置かれている。まあ、それを気取ってみたのだが、いかんせん棋力はまったくないので、今日に至るまで、ただの飾りになっている。
なぜ、博品館にチェスボードがあると思ったのかというと、1999年の2月に俳優でサクソフォン奏者のジェームス小野田さんの一人芝居『江分利満氏の優雅な生活』というミュージカルの上演があった。原作者が僕の父だったので、上演後に時間をいただいて、父について講演をした。
つまり、僕は『銀座博品館劇場』の舞台を踏んでいるのだ。
若いころから演劇畑を歩んできたものの、あまり表舞台に出なかった僕としては青天の霹靂、前代未聞であった。お蔭様で、小野田さんの人気もあり、概ね盛況であったと記憶している。
このとき、劇場への行き帰りの際に階下にある玩具売り場をつぶさに見学していた。子供向けの玩具、各種の模型から手品のネタ、様々なゲームが豊富に展示されていて、飽きることがない。
そういえば、そのかなり前にも博品館劇場の楽屋にお邪魔したことがあった。俳優で、ジャズシンガーでもあるジェリー伊藤が、1979年2月に前田美波里、ピアノの世良譲、クラリネットの北村英治らとミュージカル仕立ての寸劇を含むジャズコンサートを上演したのだ。
私事になるが、ジェリー伊藤は僕の父の妹の夫で、僕にとっては義理の叔父ということになる。
そんな関係もあって、上演を堪能するとともに、楽屋にも挨拶がてら顔を出した。もちろん玩具売り場にも足を運んだ。
銀座通りに面して劇場と玩具店として有名な博品館は1899年、帝国博品館勧工場として創業。当時は煉瓦造りの3階建てで屋上には時計塔が設置された。
設計施工はアメリカで建築を学んだ伊藤為吉で、ジェリー伊藤の祖父に当たる。叔父さん、あのとき、それに気がついていたかなあ。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2024年3月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「歌舞音曲と玩具の殿堂」。