銀座の不思議
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
銀座4丁目の交差点に立って辺りに目を配ると、中央通りと晴海通りが十字に交叉していることに気がつく。銀座8丁は綺麗に区画整理された碁盤の目になっている。
改めて考えてみれば、東京都内にある代表的な繁華街は不定形をしているものがほとんどだ。渋谷は谷底とも形容され、道玄坂、宮益坂と、どちらも渋谷駅からは坂を上がらなければならない。
新宿はなだらかな丘の上になるだろうか。明治通り、甲州街道、青梅街道という逆Kの字型の大通りを基本として、斜めの道が多い。
海外に目を移しても、パリはいくつものロータリーから放射線状に大通りが延びて星形を作り、角はほとんど直角ではない。マンハッタンは区画整理してあるようだが、実はかなりの高低差がある坂の街だ。
銀座8丁が歩きやすいのは、平坦な碁盤の目であるからかもしれない。意外にも人工的な景観は、銀座の不思議だろう。
新橋から上野まで続く中央通りは長いが、銀座部分は、文字どおり銀座通りとも呼ばれている。かつて銀座を歩くというと銀座通りを端から端まで歩くことだった。主な商業施設はこの銀座通りに沿って建てられていたからだ。つまり銀座8丁を象徴するメインストリートだった。
では、晴海通りはというと、東を見れば歌舞伎座があり、新橋演舞場があり、映画館でいえば東劇があり、かつては松竹会館があった。そこは現在、あらたな高層ビルとなり、映画・演劇関係の図書館を併設している。
さらに東に進めば築地の魚河岸ということになる。場外は一般の方が買い物を楽しめるところでもあるが、半世紀も前はシロウトが近づけない専門家のための専門店が軒を連ねる場所であった。
晴海通りの西の方には、当時としては斬新な建築であったソニービルを望むことができ、地下にフランス料理の『マキシム・ド・パリ』、半地下に『パブカーディナル』、最上階にイタリア料理の『サバティーニ・ディ・フィレンツェ』と、時代の最先端をいく一流の飲食が楽しめたものだった。
さて、現在はといえば、この晴海通りも銀座を象徴する大通りとなっているだろうか。言うまでもなく、有楽町マリオンができたことにより、築地から有楽町という動線が加わった。主に外国からの観光客、また国内の観光客によって変化してきているのだ。
このことによって銀座通りと晴海通りが共に銀座を代表する目抜き通りとなったのだった。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2021年7月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座の不思議】。「銀座散歩は碁盤の目に沿って」。