銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
趣味の世界は深くて広い。僕も色々と手を出している。老後の楽しみという言い訳を用意していたのだが、いざとなると、多少、手広くやりすぎているかなとも思う今日この頃だ。
その中にカスタムナイフの収集というジャンルがある。実用的な包丁やキャンプ用品ではなく、そのフォルムや完成度を味わうもので、非常に趣味的なものだと思っている。
女子は子どもの頃からおままごとで会話を練習するといわれている。男子は棒切れを手にして、見えない宇宙人と戦う。今ではジェンダー平等の観点から不適切な決めつけかもしれないが、刃物を扱うのは、大人になってみれば女性のほうが料理を担当することが多いので、なじみ深いものになるかもしれない。
しかし、調理に凝るとなると、男のほうが道具の選定からはじまって、色々と蘊蓄を並べるようである。
かつてノルウェーに行ったときは、少数民族サーミが常に携帯しているハンドメイドのナイフを土産として購入した。
以前、銀座には刀剣を扱うお店が多いということを、この連載で書いたことがある。日本刀に魅せられて専門店を覗いてみるのだが、おいそれと手にできるものではない。そこへいくとカスタムナイフの収集は手頃な趣味といえるかもしれない。
ただし、日常的に持ち歩けないのは、どんな刃物も同様である。登山やキャンプなど正当な理由がないかぎり、家からは持ち出せない。
銀座の場外馬券売り場の並びにある『銀座 菊藤』には何度も訪れている。刃物屋というよりは、金物屋も兼ねているというか、台所用品も品揃えが充実していて、料理もたまにする僕としては見逃せないお店だった。街の商店街にあるような庶民的な店で、昔ながらの銀座の飲食店を陰でささえる職人さんたちの御用達として、重宝されていたのではないか。
お店は開業が昭和26年で僕よりもひとつ年下だから創業74年か。
久しぶりに通りかかったら、すっかりリニューアルされていて、同じ店とは思えなかった。令和元年の6月に新装開店したとのことだった。モダンな店内は明るく、インバウンドに人気だという包丁の陳列が見やすくなっていた。
ちょっと前のことだが、友人のブルガリア人も、母にプレゼントするのだといって包丁を購入していた。
今現在、日本の包丁は世界的なブームであり、実用性の高さと芸術作品ともいえる工作技術の洗練されたフォルムにも人気が集まっている。
各種のナイフも生活雑貨も、気が利いたものがここで揃いそうだ。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2025年6月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「切れ味あざやか 銀座の包丁」。