銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
銀座に出ると必ず立ち寄るお店が何軒かある。なかでも山野楽器は大学時代からの御贔屓で、どうしても足が向いてしまう。
今では何でもインターネットで購入することが多くなった。古いといわれてしまえば、それまでなのだが、僕はどうしても現地に足を運んで、現物を見ないと買う気になれない。
書店にしても、書評などでこれはという書籍を見付けたとき、やはり最寄りの書店に出向いて購入する。なければ店頭で取り寄せを頼む。
インターネットによる購入は、自分がこれを欲しいと思って検索するのであって、意外なものに出くわすのはまれなことだ。
もっとも、お目当てを検索すれば、この商品を購入された方は、こちらも購入されました、というメッセージが添付される。しかし、書籍などの場合、通販がお勧めのものは、すでに持っていることが多いのではないか。
実際に店舗に出かけるというのは、自分でも予期していなかった商品を店頭で発見するという醍醐味からなのだ。
せんだっても、銀座の山野楽器でウインドウ・ショッピングをしているとき、愕然として我が目を疑うという経験をした。まさか、そんな作品がこの世に存在するとは思ってもみなかったのだ。
それは、ジュリー・テイモア監督作品『夏の夜の夢』のDVDであった。
しかも、書籍でいえば平積みというのだろうか、ジャケットの表が見えるように映像コーナーに置かれていた。
まるで、僕に見付けてもらうために、そこに存在しているようだった。
何故、僕がそれほどまでに驚いたかということに関しては、少しばかり説明がいるだろう。
現代を代表する演出家としてジュリー・テイモアは『ライオンキング』の演出で知られているが、そもそもはフランスの演劇学校で学んだひとで、同じ学校を卒業した、僕の大学時代の指導教官の後輩にあたる。
つまり、僕にとっては兄弟弟子とまではいえないが、どこか発想に共通するところがあると感じている。
それに、かつて演劇に携わっていたころ、僕が唯一、本格的に演出したことがあるのが、このシェークスピアの『夏の夜の夢』なのだ。
こんな偶然は、しかるべき店舗に出かけて丹念に商品を見て回らなくては体験できないことなのだ。
達者なひとはパソコンでの検索で見付けられるのかもしれないが、不器用な僕には、やはりその場に立ってみないと手にできないものなのだった。改めて現場に足を運ぶことの重要性に気付いた瞬間だった。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2023年3月号掲載時点のものです。
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