銀座の謎 第3回
手をつなぐ商店街の
古き良き風習

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

高級ブティックが軒を連ねる銀座を商店街といっていいものかどうか。しかし、そこには、今も生きている古き良き伝統のようなものが歴然として存在するのだった。

それを感じたのは、ちょっと前にお洒落なゴム長が欲しくなったときだ。銀座のこの店ならばあるだろうと訪れると、果たして、当店では扱っていませんという。
がっかりして店を出ようとしたら、店員がたぶんあのビルの何階にある専門店に行けばあると思いますと言う。競合他社を教えるのかとも思ったが、言われるままに、その店に寄ってみると、まさに欲しかったゴム長があった。その店員の心遣いがうれしかった。これは老舗の余裕というものだろうか。

イラスト・駿高泰子

ある日の新聞に、僕が前から欲しいと思っていた鉛筆ホルダーの紹介記事が掲載されていた。それは短くなった鉛筆に取りつけて使用する補助軸だ。なんでも昔懐かしいエボナイト製でキャップもついて携帯に便利だという。
そんなものはネットで購入せよ、とおっしゃるかもしれないが、僕は製品の質感や・持ち重り・を大切にしている。それにアナログにできるものはデジタルからアナログへという主義なのだ。つまり、この時も銀座に出かけた。

目指すのは選りすぐりの文具、画材などをそろえている店だ。何店かあたれば、ないことはないだろうと高をくくっていたのだが、どの店も売り場には置いていないようだった。

ある店で、取り寄せてくれるかと店員にその旨を伝えると、当店では扱っていませんとのことだった。これは困ったと思っていたら、その店員が、それは四丁目の角を曲がったところにある文具店の商品じゃないかと言う。他店では取り扱われていない製品であるようだった。
その店ならば、以前、銀座の路地裏を探訪したときに確認していた。間口一間ばかりの小さな店で、筆記用具専門と書かれていたのだが、その時は扉が閉ざされていた。すなわち、銀座の謎の店である。

電話番号はわかったので、さっそくかけてみると、当店は予約制ですとのことだった。
日時を指定して訪れた。当該商品は新聞に出ていたもののほかに、素材がアセチロイドやベークライトのものがあり、色やデザインも数種類が用意されていた。鉛筆を固定する部分は真鍮製でバランスがいい。ちょいとお高いがただちに購入した。

結局のところ、ここでも目当ての商品を手に入れられたというほかに、銀座の商店街の買い物客に対するあたたかい気遣いを感じたのだった。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。現在、『山口瞳 電子全集』(小学館/詳細は下記URL)の解説を執筆中。

https://pdmagazine.jp/yamaguchi-zensyu/

*掲載情報は2019年3月号掲載時点のものです。