銀座の不思議

銀座で発見、
現代建築の粋

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

古くからの伝統が息づくような銀座ではあるが、『和光』などは別として、主だったビルが建て替えられ新築されるので、十余年も経てば、まったく別の景観になってしまうといわれている。

その都度、新鋭の現代建築の設計者が、それぞれの腕を競う。現代建築というと、欧米が先進国であるように思われているが、実際には日本が最先端をいくジャンルである。

それというのも、銀座にも高さや色について規制があるが、諸外国では歴史的建造物保全のためにさらに様々な制約があるからだ。

友人であるイタリア人は母国にいた頃、建築家を目指していたが、仕事が少なく、あきらめた。たとえ建築家になれたとしても、街中では内装工事ばかりで、新築の依頼はなく、郊外の隣の家が見えないような場所でしか、現代建築の家屋は建てられないのだそうだ。言うまでもなく街中は歴史的建造物が並び、新規に建て直せないのだ。

イラスト・駿高泰子

かつて銀座の老舗がパリのシャンゼリゼに出店しようとしたところ、伝統のシンボルカラーの変更や社名のロゴを規格のものにしろと要求されて当惑したのだという。

意外にも現代建築家が思う存分、腕を振るうことができるのは日本国内であり、その象徴的な場所が銀座なのだった。

たとえば、銀座8丁目にある静岡新聞・静岡放送東京支社ビルなどが、モダン建築の象徴だろう。丹下健三氏の設計になる。1967年竣工のオフィスビルで、今現在も使用中であるらしい。僕にとっては、道路に面した池で金魚が泳いでいるビルだ。

同じく8丁目であるが、中銀カプセルタワービルは黒川紀章氏の設計。こちらはカプセル型の集合住宅として企画された。1972年竣工。一部屋ごとにパーツとして交換、再利用、また組み合わせを変えて発展する、当時はもっともモダンな建築として一世を風靡した。この設計思想は時代を先取りして、昭和としては新しすぎた。今後も発展が期待される発想だ。

僕が知る前衛的な現代建築家は、半世紀ほど前に設計思想として、外壁と内装が別の素材であるのは変だと、コンクリートの打ちっぱなしをご自身のテーマとしていた。

しかし、2021年3月にオープンした『ルイ・ヴィトン銀座並木通り店』は、外観を建築家の青木淳氏が担当し、内装はピーター・マリノ氏が受け持つという発想の転換をしている。外観と内装の完全なる分離だ。これが今や時代の最先端ということだろう。

外国からの観光客が銀座の建物を撮影しているのを不思議に感じるかもしれないが、これだけ前衛的な街並みは、世界でも珍しいのだ。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。

*掲載情報は2021年8&9月号掲載時点のものです。

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山口正介さんが綴るコラム【銀座の不思議】。「銀座で発見、現代建築の粋」。