銀座の不思議
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
次々と工事が入って、その相貌を変化させていく都市の景観ではあるが、銀座は比較的穏やかに推移しているように思える。
しかし、このところ銀座通りの商業施設は、建て替えたり店舗が入れ替わったりして、なかなかに面白い。
久しぶりに晴海通りを歩くと、三原橋公園というものが新設されていた。はて、川もなければ橋もないのに、三原橋とはこれいかに。これも銀座の不思議だろうか。
ご存じの方には種明かしもなにもないのだが、ここには確かに、その面影を残すそれらしき橋のごときものが存在していた。
僕が記憶しているころは、橋のごときものの下には3軒の映画館、飲食店と、種々雑多なみやげ物を売る店が肩を並べていた。その橋の下を利用した短い商店街に行くには急勾配の広い階段を下りなければならず、ちょっと異質な近寄りがたい風情があった。
しかし、ここの映画館は名画座であり、ここでしか上映されなかった映画もあり、僕は少なからず、ご厄介になったものだ。上映の途中で隣接している地下鉄の振動で館内が揺さぶられることもあり、作品によっては、なかなか味わえない効果音となった。
銀座界隈には橋という字がつく地名が散見され、この三原橋、数寄屋橋、京橋などがある。
かつて東京は水の都であり、「東洋のベニス」ともいえる様相を呈していた。
いうまでもなく当時は商品の流通が水運によるものだったからで、銀座だけでも、西から外堀川、三十間堀川、築地川があり、北に京橋川、南に汐留川が流れていた。
いずれも現在は埋め立てられていることは、ご案内のとおり。僕はかろうじて数寄屋橋の下が川だった頃を憶えている世代になるだろうか。
例のすれ違いドラマの傑作『君の名は』で、二人が待ち合わせを約束した橋が、数寄屋橋だった。
『銀座ナイン』の中にある老舗の喫茶店で地元の古老が、「ここが昔、川だったのを知っているかい」と、若い店員に話しかけていた。
今は上が首都高速になっている『銀座ナイン』は旧・汐留川で、右折して北に進んだコリドー街に並走する箇所は外堀川であり、現在の数寄屋橋交差点に至る。
この辺りの事情をネットなどで検索していて、ちょっと分からないことがあった。
現在は昭和通りと晴海通りの交差点が三原橋交差点と表記されているのだ。これもまた一つの不思議だろうか。古の三原橋は三原橋公園となった場所にあり、下を三十三間堀川が流れていたのだ。後年、誤解が生じるかもしれない。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2021年3月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座の不思議】。「運河が公園に変わるまで」。