銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
時間に余裕があると町をぶらぶらするのが、僕の趣味と実益をかねた楽しみ。その中でもデパートは雨風にさらされず、立体的な町歩きができるので、常に散歩コースの第一候補となる。
銀座には沢山のデパートがあるので、どこに寄るか困ってしまうのだが、松屋銀座の7階に一番よく足を運んでいるだろうか。
8階の催事場で中古カメラ市が開催されたとき、そのついでに立ち寄ったのが初めかもしれない。この中古カメラ市にもよく顔をだしていた。次の開催はいつごろだろう。
7階は広い意味での家庭用品の売り場といってもいいかもしれないが、最先端の優れた機能とデザインのものが並べられているという点では、普通の家庭用品売り場とも違う。
家庭用品とは何かと問われれば、台所用品や居間の椅子、テーブルの類い、さまざまな生活雑貨ということになるのではないか。
ともかく、そんな日常生活の必需品の中から、ちょっとお洒落で使い勝手がいいものを探しだすのが、何よりも面白いのである。
そんなこともあって、わが家の台所には、この7階の売り場で購入した、キッチンタイマー、おろし金、フライパンなど色々な製品が並ぶことになる。
7階フロアの中央には日本デザインコミッティーによる、会員たちに選ばれた優良デザインの生活用品が並ぶコーナーがあり、ここの品揃えも僕の好みだ。
ここでは、ちょっと趣味人を気取りたいときに使いたくなるような意外な新製品を購入している。
それは、筆記用具のときもあり、台所用品のときもあり、音響製品であったりもするのだが、伝統工芸にも配慮された最先端のデザインは使い勝手もよく、重宝している。
また、こんなのが欲しいなあ、と思ったとき、この7階にいくと、不思議なことに、僕が望んでいるものに、ぴたりと当てはまるものが陳列されているのだ。
あるとき、和風か中華風の麺類をつくろうと思って、それに合うような丼を拙宅の台所で捜したら、ちょっと小ぶりの洒落たものはあるが、一食分がよそえるほどのものがない。
そこで、ここならばあるだろうと出かけたのが、やはり松屋銀座の7階なのであった。
ちょうど波佐見焼の窯元による展示がはじまったところであり、手頃な丼も並べられていた。こうしたときに、独り暮らしであるにもかかわらず二つ買ってしまうのが、僕の習い性なのだが、いつかは二人前が必要になると思っているのだろうか。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2023年7月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「百花繚乱、百貨店」。