銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
銀座の王子製紙(現・王子ホールディングス)社屋の中にある王子ホールといえば、音楽の殿堂として有名だが、その所在地の通りを隔てた向かい側には洗練された佇まいの『王子サーモン』のショップがあることも、ずいぶん前から知っていた。
この王子製紙とサーモンの関係はなかなかに興味深い。
当時の副社長が欧州を旅行した際、ロンドンで食べたスモークサーモンの味が日本でいうところの鮭の風味とまったく違うことに驚く。そして、そもそもの原材料が北海道の鮭であることを知り、ぜひ日本でも生産したいものだと思って開発したのが、王子サーモンの始まりだという。
スモークサーモンといえば、それは燻製であり、スモークするためには良質な木材が必要である。
ここにおいて製紙会社とスモークが奇跡的な取り合わせとなる。製紙業であるだけに、木材の選定や、良質な木材の扱いはお手の物だったのだ。
なるほど、これで製紙会社とスモークサーモンという、一見なんの関係もなさそうなものが、実は密接な関係にあったことを納得できた。
叩けばカンカンと音が出そうであった、これまでの日本の鮭の燻製ではなく、上品な味わいを持ち、柔らかさと弾力のある食感を兼ねそなえた王子サーモンは、洋食のみならず、和食にも中華料理にも、その他のエスニック料理にも適材であるだろう。このところ、健康によいと取りざたされているDHAなども豊富に含まれて、お勧めの食材となっている。
かつてノルウェーのサーモン養殖場を取材したことがあるのだが、現在の養殖技術には格段の進歩が見られた。もちろん飼育の自動化と食の安全基準も満たしている。
帰国の際に立ち寄ったコペンハーゲン空港の免税店で購入した、真空パックの、ビネガーと糖分でマリネして香草のディルで香りづけをしたサーモンが美味しかったのだが、僕はまだ日本ではお目にかかっていない。王子サーモンの店頭では見かけなかったが、あるようだったら、ぜひ食べたい。
それはともかくとして、内外の5種類の鮭を、色々なタイプで購入できるのも銀座店の特徴だ。また、スモークサーモンの各種調理に合わせられるワインやオリーブオイルなどの食材も豊富に用意されていて、これもありがたいことだ。
川で生まれ、海で育ち、川に戻る。その鮭を育てるのは、豊かな山林が生みだす、栄養たっぷりな河川の恵みにほかならない。
紙は豊穣な森林から生みだされ、また山林は清流を生み、魚介類を育てる。地球の逞しい循環だ。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2026年1月号掲載時点のものです。
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