銀座より道、まわり道
文・山口正介 イラスト・駿高泰子
Text by Shosuke YAMAGUCHI
Illustration by Yasuco SUDAKA
行きつけのスナックで飲んでいると、友人が入ってきて、「しょうちゃんだったら、こういうの好きじゃない」と差し出したのが、コミック誌『アクションデラックス』で、勧められたのは、大友克洋・作の「童夢」だった。
僕はたちまち、魅力にとらわれ、酒席であるにもかかわらず、没頭して読了した。これは、えらいことだ、僕はまったくこの作家を知らなかった。
それが、今調べたら1980年のことだった。実は自他ともに認める漫画少年であったが、大学に入ると同時に『ガロ』と『COM』の定期購読以外の漫画を読む習慣をやめていた。当時はまだ漫画は子どもの読むもので、大人になったら小説に移行するものだという固定観念があったのだ。
それでも、たまに床屋の待ち時間や、入った喫茶店の棚から漫画雑誌を取り出して読むことはあったが、新しい作家を探したり、新作に共感したりすることはなかった。
しかし、この作家は只者ではない。さっそく掲載誌と出ているかぎりの単行本を購入した。僕は、そんなわけで知らなかったのだが、大友克洋はすでに作家として斯界の雄。数年前から活躍していて、後に「大友以前、以後」といわれることになるほどの力を持っていた。以降、新作が出るたびに愛読し、映画作品も観ることになった。
それから30年ほどが経過して、吉祥寺の、今はなくなった駅前のバーで、偶然、この店の常連だった大友さんと出会うことになる。
こちらは、ファンだし、一応は映画評論を書くことも職業としているが、酒場のルールとして仕事の話はしない。カウンターでご一緒しても、目顔でご挨拶するぐらいなものだ。それでも大友さんを含む知人仲間とカラオケに行くぐらいの付き合いはあった。
そんな、多少のご縁がある大友さんが銀座の地下鉄駅構内に陶板レリーフ作品を制作したという。これは見に行かなければならない。作品は銀座4丁目の地下コンコースの一角に展示されていて、恒久的なものと思われる。
ご覧になっていただければ、一目瞭然なのだが、いつもの大友タッチを陶板に焼いて、立体的なタイル張りのように成形している。
テーマは、太古から現在、未来に至る人間が作り出した美術の歴史であった。細かい作業の、さらに細部を見ると、大友作品の登場人物もそれとなく差し込まれている。歴史を一望するとともに、大友さんの集大成ともいえる大作であった。
行きつけのバーもなくなり、ご一緒したロックコンサートに誘ってくれた飲み仲間達との連絡も途絶えてしまったが、大活躍の現場に接することができるのは、ありがたいことだと思っている。
やまぐち しょうすけ
作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。
*掲載情報は2026年5月号掲載時点のものです。
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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「陶板レリーフでたどる人間の美術史」。