銀座より道、まわり道

筆記用具は必需品

文・山口正介 イラスト・駿高泰子

Text by Shosuke YAMAGUCHI

Illustration by Yasuco SUDAKA

文房具はいくつになっても楽しい。
随分と購入し、それで長篇小説に挑もうなどという大それた思いを抱くのだが、さて、いざ机に向かって鉛筆を握ると、なかなか筆が進まないことも日常である。

子どもの頃から筆記用具には憧れがある。鉛筆は削るだけでも嬉しかった。長じて文筆業の片隅で生活してみると、その思いは一入ひとしおだ。
色鉛筆も好きな文房具だ。文筆業の方には日曜画家としても、いわゆる文人画として名を成すことが多いようだ。
なかでも、カランダッシュなど高級鉛筆には目がない。

水彩色鉛筆は描いてから、筆を水につけてなぞると水彩画になるところが面白い。これも画用紙を前にすると、何を描くべきか迷ってしまい、理想と現実には、隔たりがあるようだ。

『カランダッシュ 銀座ブティック』に向かう。アトリエともいえる店構えで、かねてから気になっていたのだが、機会がなくて、最近やっとお邪魔した。

それには多少の訳がある。ちょっと前の新聞紙上に文房具製品の広告が出ていたのだが、そこに書かれていた、見た目が同じシャープペンシルと芯ホルダーの違いがわからなかった。

こういう謎があると、解明したくなるのが、僕の性情なのだ。しかし、調べるときはネットなどに頼らず、これはと思う店舗に出向いて、お店の方から直にうかがうということを信条としている。

洒落たビルが多い銀座の中でも、このカランダッシュの店舗は外観からして魅力的なデザインのお店だ。やはり販売しているものが、持っているだけでも嬉しくなる高級文具の専門店だからだろう。

それで、お店の方に教えていただいたシャープペンシルと芯ホルダーの違いというのは、ノックすると内蔵された芯が出てくるものがシャープペンシルで、ノックすると先端の金具が開いて、そこに芯を装填するのが芯ホルダーとのことだった。芯ホルダータイプは6Bなどの極太芯を使用できるので、シャープペンシルタイプと利用目的が違う。

2丁目の店舗の2階は主に水彩画など、絵画用品の売り場になっていて、これも楽しくなる。

カランダッシュは、1915年にジュネーブで設立された鉛筆工場を母体として、スイスメイドの繊細にして精密な高級筆記用具ならびに画材を扱う。

王道の鉛筆だけではなく、849シリーズは鉛筆にインスパイアされた6角形のボールペン。ノック音が小さいので、会議などでの使用にも適しているとか。

エクリドール コレクションは万年筆などのシリーズ。直線的なデザインと精密な彫刻は、やはりスイスのハイセンスな芸術感覚を漂わせる逸品。これも垂涎の製品だ。

さて、カランダッシュを手にして長篇小説を書くか、近所の公園で写生を始めるか。心は千々に乱れる。

やまぐち しょうすけ

作家、映画評論家。桐朋学園演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て小説、エッセイの分野へ。近著に『父・山口瞳自身/息子が語る家族ヒストリー』(P+D BOOKS 小学館)。

*掲載情報は2026年8月号掲載時点のものです。

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山口正介さんが綴るコラム【銀座より道、まわり道】。「筆記用具は必需品」。