今月の一皿

日本ならではの
イタリアンを

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

神田神保町と聞いて思い浮かぶのは、なんといっても“本の街”であること。古書店や新刊書店が多く集まり、本との一期一会を楽しめる。そんな出合いを求めながら散歩をしていると、様々な店との出合いもある。

喫茶店やラーメン店に居酒屋、スキーショップやスポーツ店もたくさんある。大学も周辺に多いし、裏道にも楽しみがあふれている。グルメな友人に紹介してもらった『ALTER EGO(アルテレーゴ)』も、細い裏道に面した一軒家のレストランだ。

極細麺とパルマハムがしっとりと絡み合う一皿

壁の青緑が日本では珍しい色で印象的だが、これはイタリア・ミラノの本店『TOKUYOSHI』の壁と同じ色にしているのだそう。なんともお洒落だ。店名の「アルテレーゴ」とは「分身」という意味で、本店の分身としての意味を込めている。「イタリアではイタリアの食材でイタリア人に和食を、そして、日本では日本の食材で日本人にイタリアンを」というコンセプトだ。

ヘッドシェフを務めるのは平山秀仁さん。とってもフレンドリーで素敵な笑顔の持ち主だが、料理に対する姿勢には、こだわりと厳しさを強く感じさせる。「今月の一皿」に選んだのは、24カ月熟成のパルマハムをたっぷりトッピングしたタヤリン。平山さんが4年におよぶイタリア修業時代に初めて学んだパスタがタヤリンだったそうで、思い入れのある料理だ。

時間と手間のかかるこの自家製パスタだが、本場では白トリュフと合わせることが多い。でも季節が限られるということで、平山さんは考え抜いた末にパルマハムを合わせ、食べている途中でレモンをちょっと搾り、味の変化を楽しむことがベストだということにたどり着いた。極細麺だがしっかりとしていて、チーズやハムに負けない強さがある。

スズキのロースト
「銀の鴨」の炭火焼き

ところでこの店には料理名がない。素材がそのまま料理名となるのである。だから次の一皿は、前田さんから仕入れたスズキのローストとなる。白ワイン、バター、魚のアラからとったソースはさりげなくスズキを引き立てる。

「銀の鴨」は、雌の鴨胸肉の炭火焼きだ。この鴨は青森の新郷村というところで生産されているバルバリー種で、しっとりとしているが肉肉しい味だ。鴨の骨やレバーを赤ワインで煮込んだソースが鴨の風味をより際立たせる。

平山秀仁さん
店内

アラカルトメニューは通常20〜30種類というから驚きだ。一品一品がとてもクリエイティブで、数々の引き出しがある。この続きはぜひお店で実際に楽しんでほしい。

ALTER EGO

極細麺とパルマハムがしっとりと絡み合う一皿(2,420円)は必ず頼みたい。静岡・焼津市の「サスエ前田魚店」から直送される魚はどれも最高のクオリティ。この日はスズキがおすすめとのことでローストに(4,620円)。「銀の鴨」の炭火焼き(5,280円)では、美しい肉の色にうっとりとすること間違いなしだ。*価格はすべて税込みです。

住所:東京都千代田区神田神保町2-2-32

電話:03-6380-9390(13:00-17:00)

営業時間:ランチ:12:00~15:00(土日曜・祝日のみ)、ディナー:17:00~24:00、定休日:月曜・第1日曜

  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2022年7月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「日本ならではのイタリアンを」。