今月の一皿

技ありの鮨で恍惚の時

写真・岡村昌宏 文・下谷友康

Photographs by Masahiro OKAMURA(Crossover)

Text by Tomoyasu SHITAYA

鮨好きならば、誰もがお気に入りの店を持っているものだ。握り方であったり、シャリの硬さであったり、ネタの好みだったり、そして、ご主人との相性であったり……。だから、新しい店ができる度に、「お!今度の店は自分の好みに合うかな?」と、ワクワクするのである。

新宿から甲州街道を西へと進むと、幡ヶ谷駅の少し手前の「六号通り商店街」に到着する。たい焼きやジェラートの店のほかにも、昔懐かしい八百屋さんがあったりで、いつも活気にあふれている。そんな通りに新しい鮨店が誕生した。真新しい黒い外壁のビルは、商店街の中でもひときわ目立っている。その『鮨 東京 よし田』の店内に入る。

1階の奥には、立派な一枚板の檜のカウンターがあり、その背後には、桜図の襖絵と松島を表した欄間が広がる。そして、2階のカウンター席では、輪島塗りの素晴らしい作品が壁を飾る。食べる前から贅沢な気持ちにしてくれる店だ。

さて、肝心の鮨だが、おまかせコースはマグロ専門仲卸の名店「やま幸」さんのマグロを使った一品から始まる。楽しみがなくなるだろうから、これ以上は書かないこととする(笑)が、コースの続きが期待大となるほどの絶品だ。

ウニは大きな紫雲丹で濃厚かつ甘い。シャリと混ざり合う瞬間は、素晴らしいの一言だ。おもしろいのが煮蛤で、低温でスチームしたそれはとても滑らか。白醤油を使った色の薄いハマグリの出汁のつめをひと塗り。色をつけたくなかったという、藤本大輝料理長のこだわりだ。

炭の力で皮を炙った刺身
黒龍の最高峰銘柄 二左衛門と石田屋

卵焼きは、カステラか、はたまたチーズケーキかと見違えるほど、完成度が高い。芝エビや山芋が入った卵液にメレンゲを加えることで、くっきりと二層の卵焼きを作り出している。クライマックスはこの店の鮨を監修する「やま幸」代表・山口幸隆氏が選び抜いた最上級のマグロの握り。口に運べば、恍惚の時が訪れる。

紫雲丹のお料理

ネタの種類によって赤酢と白酢を分けて握り、その素材の味を極限まで引き出す藤本料理長。「ほかのお店と同じではおもしろくないですから」と話すが、奇をてらったものは使わず、素材で直球勝負と潔い。その反面、バーナーではなく、炭の力で皮を炙った刺身など、丁寧に仕上げる一品一品は、味わいに深みがあることがすぐにわかる。

藤本大輝さん
店内

ちょっと変わった最中など、まだまだ書きたいことはあるが、それは実際にお店で発見して、驚いていただきたい。

鮨 東京 よし田

「やま幸」の厳選されたマグロを使った一品からスタートするおまかせコース(30,250円/税・サービス料込み)は、つまみ、握り、デザートで構成。1階と2階それぞれにソムリエがサービスを担当。フランスDRCや五大シャトー、黒龍の最高峰銘柄 石田屋・二左衛門などが常備されるワインセラーから、つまみや鮨に合わせた酒をセレクトしてくれる。

住所:東京都渋谷区幡ヶ谷2-5-5

電話:03-3320-5401

営業時間:昼12:00~14:00、夜17:00~22:30 要予約

定休日:日曜

  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年8&9月号掲載時点のものです。

Recommends

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「技ありの鮨で恍惚の時」。