今月の一皿

ハンターソムリエがいるフレンチ

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

寒い冬を乗り越えると楽しみな春がやってくる。が、その前にシーズン真っ只中のジビエを楽しもうと広尾の「レストラン マノワ」に向かった。「ジビエ」とは狩猟で得た野生鳥獣の肉のこと。古くからヨーロッパに根付く食文化だということを再認識し、キリッとジャケットを着て貴族の気分で味わいたいと思う。

店に入るとオーク調の格調高い雰囲気に包まれる。席に座りメニューを見ると、とにかく迷う。そしてまた迷う。ここまでジビエが充実しているレストランに、過去に出合ったことがないからだ。そんな僕に、オーナーソムリエでハンターでもある中村豪志さんがていねいに説明してくれた。

驚いたのは、北海道の森町というところにジビエの解体場を所有していること。地元のハンターさんたちからの、そして時には自ら狩ったジビエはまずここで解体される。中村さんは、調理する前の解体、さらにその前の仕留め方、そしてハンターの技術にまで遡ってこだわっているから驚かされる。

さて、おすすめの「今月の一皿」は、「北海道・森町 蝦夷鹿のロースト、蝦夷鹿のジュのポワヴラードソースで」だ。「一年で一番良いシーズンですからぜひ!」と中村さん。適切な処理をされた鹿肉は一切の臭みがなく、赤身の美味しさがよくわかる力強い味わいだ。鹿の骨からとった出汁と玉ねぎのソースでいただくと、ふくよかな旨みが後から被さってくる。

この日はダブルメインのコースを頼んだので、もう一品は貴重なべキャス(ヤマシギ)をチョイス。この時期だけの本当に珍しい逸品をおすすめのワインと共に楽しんだ。ハンターの技術、個体差、調理方法で味が大きく変わるのがジビエ。その一期一会が楽しみでもある。

ところでここにはお店オリジナルのシャンパーニュとブルゴーニュがある。ペアリングコースや有名なワインも多数あるが、ジビエに合ったマノワオリジナルも堪能してほしい。

中村さんは、ジビエだけでなく、規格外の野菜などを農家から直接購入したり、地元の食材を使ったふるさと納税の商品づくりに参加したりしているそうだ。そこには、食事を文化と捉え、食事を通じて地域社会に貢献する姿勢がある。そんな中村さんの話がとても印象的な夜だった。

レストラン マノワ

写真の料理はいずれもコースの中の一品。おもしろいのは「さやあかねの黒いフォアグラたいやき」。その正体は実物を見てからのお楽しみで。ランチ7,500円~、ディナー13,000円~。メイン料理を2皿選べるコースは、18,000円。*価格はすべて税込です。

住所:東京都渋谷区広尾1-10-6 1F

電話:03-3446-8288

営業時間:ランチ11:30~13:30(L.O.)、ディナー17:30~20:00(L.O.)

定休日:毎週月曜、火曜ランチ、月1連休、夏季、冬季、ハンティングの季節に長期連休あり

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年3月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「ハンターソムリエがいるフレンチ」。