今月の一皿

西麻布の裏路地で出合う、
新感覚メキシカンフレンチ

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

旧・霞町、西麻布の裏通り。小さな看板を目印に扉を開けば、そこには8席だけの「メキシカンフレンチ」という新たな世界が広がる。メキシコで得たインスピレーションと日本の食材が響き合う、新感覚のレストランだ

昔の東京には、響きの美しい町名がたくさんあった。江戸時代には武家屋敷が立ち並んでいたという霞町もそのひとつだ。

1967年(昭和42年)まで存在していたという霞町という名は、氏神である霞山稲荷に由来すると言われている。今では「西麻布」という地名になったが、霞町のほうがどこか艶があって素敵だった、と個人的には思う。

その裏通りに、うっかりすると通り過ぎてしまいそうな小さな看板がある。扉を開け、急な階段を上った先にあるのが『No Code』だ。

米澤文雄シェフが3年前にオープンさせたフレンチの店を、今年6月に「メキシカンフレンチ」という新たなジャンルで再スタートさせた。シェフに就任した久松暉典さんは、メキシコを実際に訪れて五感で得たイメージに日本の食材を掛け合わせ、刺激的な"新しい味覚体験"を生み出している。

前菜の「アグアチレ」は、カツオと枝豆をキャベツで包んだ一皿。酸味と辛味が広がったあとに、スイカの自然な甘みがふっと顔を出す――想像を超える、鮮烈な味わいだ。

「今月の一皿」に選んだのは「カルニタス」。豚肉のコンフィに、焼きパプリカやニンニク、メキシコ唐辛子を使ったソースが寄り添い、ホロホロとほどける肉の旨みを引き出している。凝縮された風味とスパイスの香りが一体となった、力強い一皿だ。

もうひとつのメインは「熟成したカルネ」。有名な精肉店『サカエヤ』の牛肉にヒスイ茄子を合わせた一皿だ。しっかりとした食感のなかに、とろけるような旨みが広がる。後味も澄みわたり、肉の質の高さをそのまま感じさせてくれる。

シェフ 久松暉典氏

「融合というより、メキシコ料理をベースにしています」と久松シェフ。独自の世界観が宿るイノベーティブなレストラン。わずか8席という特別な空間で、その唯一無二の味を、ぜひ一度体験してほしい。

No Code

フランス、東京の『Jean-Georges Tokyo』などでフレンチの研鑽を積んだあと、ニューヨークでミシュラン1つ星を獲得したメキシコ料理店『OXOMOCO』の東京店でシェフを務めた経験を持つ久松シェフ。フレンチとメキシカンの絶妙なハーモニーが楽しめるコースは13,500円(税込)。

住所:東京都港区西麻布2-25-31 クオーレ西麻布2F

電話:03-4400-7524

営業時間:17:00~19:30、19:45~22:15 *二部制 各回一斉スタート

定休日:日・月曜

*メニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2025年10月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「西麻布の裏路地で出合う、新感覚メキシカンフレンチ」。