今月の一皿

風車、の弥七

写真・岡村昌宏 文・下谷友康

Photographs by Masahiro OKAMURA(Crossover)

Text by Tomoyasu SHITAYA

『の弥七』。一風変わった店名だが、そこには店主・山本眞也さんのある想いが宿る。有名な時代劇『水戸黄門』に登場する「風車の弥七」からとった名前だ。

というのも、山本さんのご実家は高知市で中華料理店『風ぐるま』を営んでいる。「東京でお店を始めるにあたり、両親に対するリスペクトと実家の『風ぐるま』に続くという意味で『の弥七』にしました」と、山本さんは照れながら話してくれた。

同店は、食い処、飲み処の粋な店が連なる四谷の荒木町でオープンして10年になる。店の扉を開けるとちょっとした空間があり、山本さん自らが探したという大きな灯篭や生け花が目に入って、一旦落ち着ける。銀杏の木でつくられた大きなカウンターがあるダイニングは、とても居心地のいい空間だ。

素材の良さを引き立てる日本料理と、スパイスや油で奥行きを感じさせる中国料理を融合させる山本さんのお料理。懐石のようにコース仕立てになっているメニューの中から「今月の一皿」に選んだのは「春巻き」だ。諸説あるが、立春の頃に新芽を出す素材を皮で巻いたのが始まりだそうで、こちらの春巻きの中身も、フキ味噌、筍、海老と、まさに春の薫りがする。

単純な料理だが逆に奥が深く、「食感がとても大切で、揚げた皮と中身の間の空間をつくるのが一番難しい」と山本さん。丁寧に丁寧に、何回も油の中で上げ下げすることで完成する一品だ。苦みと甘み、そして海老の塩味とのバランスが素晴らしい。「桜」などの季節感を大切にして選び抜かれた器と一緒に楽しみたいものだ。

王道の「ふかひれの煮込み」は、シンプルでいて、とても複雑かつ繊細な味だ。それは生臭さを和らげるために昆布で出汁をとり、白湯に清湯を併せてクリアな味を前面に出しているからだ。素材の旨みのみをグッと引き出しているのがわかる。

食材は毎朝、新鮮な魚や野菜を市場から仕入れるそうだ。そして、唐辛子の辛さ、山椒の痺れや香りは中国の重慶産が素晴らしいらしく、中国料理の大切なポイントもけっして外さないところに、山本さんのこだわりを感じる。

和食を取り入れた中華なのか、中華を取り入れた和食なのか、ぜひ『の弥七』で答えを見つけてほしい。センス抜群の料理と心和む空間で、気持ちが豊かになることは間違いない。

の弥七

写真3枚目:揚げたフグの白子に、炒めた重慶産の唐辛子と山椒を絡めた一皿。料理はいずれもコースの中の一品。ランチ17,600円~(前日までに要予約)。ディナーは17,600円、25,300円と36,300円の3種類から選べる。*価格はすべて税込です。

住所:東京都新宿区荒木町2-9 MIT四谷三丁目ビル1F

電話:03-3226-7055

営業時間:ランチ(予約のみ)11:30~14:30、ディナー17:30~23:00

定休日:日曜

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年4月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「風車、の弥七」。