今月の一皿

老舗ホテルの
とろける黒酢豚

写真・長野陽一 文・下谷友康

Photographs by Yoichi NAGANO

Text by Tomoyasu SHITAYA

静謐な時間が流れる老舗ホテルのチャイニーズ。長年受け継がれる秘伝の胡麻ダレ、シェフのひと工夫が施された新しい一皿。熟練の味とていねいなサービスが上質なダイニングシーンを醸成する

ザ・ビートルズが泊まったホテル―それが『ザ・キャピトルホテル東急』に対して、僕が抱くイメージである。

正確には、当時の名称は『東京ヒルトンホテル』だったが、今も館内には彼らを思い起こさせる品々が残っており、それを目当てに訪れるファンもいる。ビートルズファンにとって、まさに聖地と呼べる場所だろう。

永田町という東京の中心地にありながら、隣接する日枝神社の豊かな緑がこの季節は美しく、都会の喧騒を忘れさせてくれるのも、このホテルならではの魅力である。そんな特別なロケーションにあるのが、『中国料理 星ヶ岡』だ。

中国料理とひと口に言っても、辛味の効いた四川料理から、あっさりした味わいの広東料理まで、その幅は実に広い。『星ヶ岡』は、上海料理の源流ともされる「淮揚菜わいようさい」の流れを汲んでいると、シェフの山橋孝之さんが教えてくれた。
伝統を大切にしながらも繊細さを加えた山橋さんの料理は、日本人の味覚にもよくなじむと思う。

数あるメニューの中から「今月の一皿」に選んだのは、「長崎県産"諫美豚かんびとん"と有機玄米 庄分しょうぶん黒酢の酢豚」だ。

「諫美豚」は、食用米を与えて育てられたブランド豚。その肉を使い、八角や桂皮などのスパイスを効かせたトンポーローをまず仕込む。そこに"米つながり"で有機玄米黒酢を合わせて、酢豚に仕上げていくという趣向だ。

見た目は角煮のようだが、口に運べばほんのりと黒酢の香る、れっきとした酢豚。脂っこさをまったく感じさせず、口の中でふわりととろけていく絶品である。

この季節限定の「五目冷やしそば」もぜひ味わいたい。焼豚、大ぶりの車海老、蒸し鶏、クラゲなどを天に向かって高く盛り付けた一皿は、胡麻ダレでいただくスタイルだが、不思議とさっぱりとした後味。素材の旨みが引き立っている。「実は、タレに烏龍茶を隠し味として加えているんです」と、山橋さん。ホテルに代々伝わるレシピなのだという。

点心の「花焼売」は、もちもちとした皮の食感と、熱々の肉汁が口いっぱいに広がる一品。よく冷えたビールとの相性も抜群だ。

シェフ 山橋孝之氏

さあ、暑い夏を吹き飛ばすために―、永田町へ行こう。

中国料理 星ヶ岡

山橋シェフ考案の「長崎県産"諫美豚"と有機玄米庄分黒酢の酢豚」はアラカルト(4,048円)はもちろん、一部ランチコースの中にも組み込まれている。夏の風物詩にもなっている「五目冷やしそば(胡麻ダレ)」は点心とデザートがセットになった平日限定の冷麺ランチセット(4,806円)や、アラカルト(3,668円)で楽しめる。花焼売(2個*写真は3個)1,265円。*いずれも税・サービス料込み

住所:東京都千代田区永田町2-10-3 ザ・キャピトルホテル 東急 2F

電話:03-3503-0871

営業時間:平日/ランチ11:30~15:00(L.O.14:00)、ディナー17:30~22:00(L.O.21:00)*土日曜・祝日のディナーは17:00から。

定休日:年中無休

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2025年8月号&9月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「老舗ホテルのとろける黒酢豚」。