今月の一皿

マグロ、フカヒレ、そして?

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

『東急歌舞伎町タワー』。歌舞伎町のシンボルとして、天空まで届くような高さだ。正面の階段を2階へと上がると、赤を基調とした10店舗からなる食祭街が続く。北は北海道から南は九州、沖縄、お隣の韓国まで、各地の「ソウルフード」が集結し、一日中賑やかだ。

しかし、タワーの裏側に回ると45階まで上がれるエレベーターがあり、先ほどの喧騒とは真逆の静かで落ち着いた空間が待っている。フレンチ、鉄板焼きがあるフロアの一番奥、『鮨 甚江』へと向かう。目に飛び込んでくるのは45階から見る新宿や、その先の空と街並み。ネオン輝く東京の夜が美しい。

新しい白木の大きなカウンターが気持ちいい。9人で満席となる貴重なカウンターだ。代表の加藤聡さんに屋号の謂れを聞くと、「母の実家が江の島で網元だったのですが、その屋号なのです。それを自分の店につけました」と語ってくれた。実は、前の店をたたまれて心機一転、この場所で新しくスタートしたそうだ。そんな『鮨 甚江』には、加藤さんの思いがいっぱい詰まっている。

さて、今月の一皿は「マグロとフカヒレ」。マグロのトロとフカヒレを混ぜ合わせてスプーンに。それに藻塩を少しだけつけながらいただく。とても繊細な一品だ。そして、ペアリングで加藤さんが選んだワインは、なんと貴腐ワイン。トロの旨みに貴腐ワインの甘みが加わり、立体的な味わいを感じる。

刺身は鮨で楽しんでほしいので、このほかは火を入れて手を加えたものを、という想いがあり、後に続くつまみは温度を大切にした料理が続く。「カニの餡掛けウニごはん」や「太刀魚とからすみ」など、酒飲みにはたまらない。

加藤さんの握りは基本、手渡しだ。「固くなると香りがなくなるから、空気を入れてふわっと握ります。だから渡す力ともらう力が一緒の手渡しが、一番おいしく召し上がっていただけます」とのこと。たしかに口に入れた瞬間に、ぱらっとお米がくずれ、ネタとちょうど良い加減で混ざり合う。

書家の紫舟さんの立体的な歌舞伎オブジェが壁に飾ってあったり、堀口切子のグラスを選べたり、視覚的にも楽しく美しい。予約困難になる前に、是非。

鮨 甚江

メニューはおまかせコースで30,000円。加藤さんが考案するシャンパン、ワイン、日本酒などのお酒のペアリングコースは15,000円。真っさらな白木のカウンター席は6~8名だが、貸し切りの場合は9名まで対応してくれる。*共に税・サ込み。

住所:東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー45階

電話:03-6233-8800(BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel代表)

営業時間:ランチ(土日曜・祝日のみ)12:00~14:00(入店)、ディナー17:30~20:00(入店)

定休日:月曜

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年8&9月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「マグロ、フカヒレ、そして?」。