今月の一皿

初夏に涼しく、エスカルゴ

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

東京の渋谷。子どもの頃、渋谷駅で電車を乗り換えて通学していた。当時の面影は今やなく、ビルがそびえ立ち、複数の路線が交わり、駅の地下街はまるで迷路のようで、まったく違う街のようにさえ感じる。とはいえ、昔からある高級住宅街や一歩奥に入った路地に居酒屋などが立ち並ぶ風景は残っていて、とても懐かしくなってくる。変化する渋谷と昔ながらの渋谷、その二つのギャップがおもしろいのだ。

駅から国道246号線沿いに道玄坂方面へと上がっていくと、ひときわ大きなタワーに出くわす。目指すのは、その『セルリアンタワー東急ホテル』内の『鉄板焼 桜-SAKURA-』である。このタワーが立っている「桜丘町」という地名にちなんで命名された店名のごとく、メインカウンターの正面には、みごとな桜の幹が飾られている。

エスカルゴ・ブルギニヨンの冷製サラダ仕立て

ここ『桜』には、なんとも贅沢な特別メニューがある。それは、「鉄板ガストロノミー」。「現代の名工」に選ばれた総料理長の福田順彦さんが、一組限定で客の目の前で焼き上げるスペシャルなコースだ。

 

「今月の一皿」には、その中から「エスカルゴ・ブルギニヨンの冷製サラダ仕立て」をチョイスした。エスカルゴ・ブルギニヨンというと、温かいニンニクソースをバゲットに染み込ませて食べるのが定番だが、この料理では、冷たいエスカルゴと野菜に、ニンニクのムースを混ぜて食べる。ニンニクの香りで食欲が増し、パセリやエシャロットの風味も混じり合い、この後に続くメインに期待を抱かせる香り豊かな前菜で、涼やかで初夏にぴったりだ。

素材
サーロイン

福田さんとの時間では、楽しい会話、そして驚きと喜びの連続だ。なかでも抜群なのは、その火入れ。素材を大切にし、生産者への感謝の念をもって、ぎりぎりのところで手を加えていく。その手法は、まさに〝福田ワールド〞だ。

もちろん、ほかのコースでもその考えは変わらない。北海道産A5ランクのハイクオリティなサーロインは火入れ前の赤身の美しさが素晴らしく、火入れの途中では、目の前で肉の色がみるみる変わり、サシがじんわりと溶けていくのがわかる。旨みと甘みの塊ともいえるステーキには、驚くばかりだ。

福田順彦さん
店内

食後、もしあなたがシガーが好きだったら、お隣のシガーバー『R261』に寄ってみるのがいい。ハードリカーとシガーで、極上の時間をとことん楽しめることだろう。これぞ大人の、渋谷の夜の過ごし方だ。

鉄板焼 桜-SAKURA-

ランチは6,655~12,100円までの3コース、ディナーは18,150~36,300円までの3コースがそろう。福田総料理長が一組限定でもてなす「鉄板ガストロノミー」は、ランチ、ディナー共に42,350円(1名分料金。2名より/前日の15:00までに要予約)。

*価格はすべて税・サービス料込みです。

住所:東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー東急ホテル 2階

電話:03-3476-3521

営業時間:ランチ11:30~15:00(L.O.14:00)、

ディナー17:30~23:00(L.O.21:30)

定休日:無休

 

  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

 

*掲載情報は2021年6月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「初夏に涼しく、エスカルゴ」。