今月の一皿

出汁が導くイタリアン

写真・長野陽一 文・下谷友康

Photographs by Yoichi NAGANO

Text by Tomoyasu SHITAYA

焼きあごや地鶏――日本の旨みを重ねた出汁が、イタリアの伝統料理に新たな表情をもたらす。参宮橋の『オルケストラ』で味わう一皿は、和と伊の境界を軽やかに越えていく

友人と「新しい店でイタリアンが食べたいね」という話になり、新店を開拓することに。今風に好みのワードを組み合わせ、AIに聞いてみた。いくつかの候補の中から『オルケストラ』のホームページを見てみると、なんと以前取材したレストランの当時のシェフが就任しているではないか。便利な時代だなと思いつつ、自分の好みにどこまで近いのか――そんな期待と好奇心を胸に、さっそく予約して足を運んだ。

場所は小田急線参宮橋駅から徒歩約1分。小路を曲がった先にある店の重厚な扉を開けると、ゆったりとしたカウンター席が広がる。ひときわ目を引くセンスのよい絵画は、木梨憲武氏の作品だという。

シェフの小川慎二さんは長崎県出身。優れた日本の食材、とりわけ長崎の素材を生かしながら、エミリア・ロマーニャ発祥の料理へと昇華させる。「今月の一皿」に選んだのは、「トルテッリーニ・イン・ブロード」だ。焼きあごや五島地鶏「しまさざなみ」、長ネギ、昆布、トマトなど、日本の食材からていねいに引いた出汁に、地鶏のミンチを詰めたトルテッリーニを浮かべた一皿。イタリアの伝統料理に焼きあごの旨みが重なり、奥行きのある味わいを生む。どこか日本料理のお椀を思わせる、最初にほっと心がほどけるような味わいがうれしい。

もう一品の「ラヴィオーロ」は、小川さんがイタリアでスーシェフとして修業していた『サン・ドメニコ』直伝のスペシャリテ。1970年代から続く伝統の一皿で、季節ごとにソースを変えて提供される。これから夏にかけては、グリーンピースのソースになる予定だという。薄くのばしたパスタ生地の中には、リコッタチーズとほうれん草、そして卵黄が丸ごと包まれている。ナイフを入れると、とろりとあふれ出す卵黄がソースとなり、複雑な香りとともに濃厚な味わいが広がる。

シェフ 小川慎二

店名の『オルケストラ』は、イタリア時代に過ごしたイーモラという音楽の町に由来する。生産者や料理人など、レストランに関わるすべての人とともに楽しみ、喜びを分かち合いたい――その想いをオーケストラの一体感になぞらえて名づけたという。誌面では伝えきれない遊び心を、ぜひ店で体感してほしい。

オルケストラ

「オルケストラ コース」と名づけられたディナーコースは19,800円から。ドリンクはティーペアリング(6,600円)とワインペアリング(11,000円)の用意のほか、イタリアワインやシャンパーニュ、ブルゴーニュワインも豊富にそろえている。土日曜限定のランチコースは11,000円から。*すべて税込。

住所:東京都渋谷区代々木4-1-7 森田ビル1F

電話:03-6383-4036

営業時間:ランチ(土日曜限定)12:00スタート、
     ディナー17:30/18:30/19:30/20:30スタート

定休日:水曜のほか、不定休あり

*メニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。
事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2026年6月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「出汁が導くイタリアン」。