今月の一皿

鯨の名店、復活

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

港区白金高輪の商店街に、『くじら料理 うずら』という店があった。10年以上前に友人に紹介され、一晩で虜になったその店は、典型的な頑固で無口の親父さんと、よく喋る人懐っこいお母さんが、たった二人で切り盛りしていた。

近所の食堂みたいに飾り気も色気もなかったけれど、通っているうちに親父さんとも打ち解け、片付けを手伝うと機嫌がよくなるお母さんにもよくしてもらえて、居心地のいい場所だった。料理を注文しすぎると、大抵は「もういいんじゃないの?」とか「一人前で十分だから」と、本当の母親みたいにお節介してくれたものだ(笑)。

しかし残念なことに、昨年親父さんが急逝し、閉店となってしまった。もうあの味は食べられないのかと落胆していたところ、新生うずらをスタートすると、お母さんから連絡が入った。いやはや、これはすごいこと。なんと応援してくれる人が見つかったらしく、二人三脚で再スタートを切ったのだ。

前の看板をそのまま嵌め込んだ玄関から店内に入ると、まずはL字型の大きなカウンターが目に飛び込んでくる。お母さんと話しやすい素敵な空間だ。2階に上がると個室や4人掛けのテーブルもあり、大人数でワイワイやれるようになっている。

さて、肝心な「今月の一皿」は、大好きな「鯨ベーコン」だ。ずっと懇意にしている築地の仕入先から選びに選び抜いた逸品だそう。こんなに大きな鯨ベーコンは見たことがない。盛り付け方も豪快かつ豪華で食欲をそそる。辛子をつけ、大量のネギを巻いて食べるのがうずら風。臭みはまったくなく、いくらでも食べられる。

ちなみに鯨の種類は「ニタリ鯨」とのこと。そして、尾の身(刺身)は「長須鯨」だそうで、「その時々のよいものを使います」と料理人の原子貴之さん。鯨の種類ごとに味わえるのは、実におもしろい。ニンニクのたまり漬けや生姜でアクセントをつけながらいただく厚切りの肉は、旨みをしっかりと感じさせてくれる。

そして気になるのが、「北海道 礼文島 ウニ一夜漬け」。見るからに濃厚なウニはねっとりとした食感で、凝縮された味わいがある。海苔でウニと胡瓜を巻いて食べるのは、最高の酒のつまみだ。

スッポンのまる鍋からヒントを得たというオリジナルの「はりはり鍋」は、生姜にたっぷりの水菜、そして旨みを吸った油揚げ入りのスープが絶品だ。ここに鯨の肉を投入する。無限に食べられると思うくらいの完成度だ。

もう具がないのにスープばかり飲んでしまった。〆のラーメンには色々な謂れがあるという。そんなおもしろい話の続きはぜひお店で。

くじら料理 うずら

初めて訪れる方には、尾の身の刺身、鯨ベーコンやはりはり鍋、〆のラーメンなどがいただける「鯨づくし鍋コース」(1人前12,000円)がおすすめだ。濃厚な甘みが楽しめる「北海道 礼文島 ウニ一夜漬け」(8,000円)は、単品で注文できる。このほかにも心温まる料理の数々ばかりで、迷ってしまうこと間違いなしだ。*共に税込。

住所:東京都港区白金1-12-20

電話:03-5421-8920

営業時間:17:00~24:00(L.O.23:00)

定休日:日曜(月曜不定休)

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年10月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「鯨の名店、復活」。